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寒さで目を覚ました花恋は、助手席に置いた鞄の中から携帯を取り出し時間を確認した。時間は朝方4時50分。かなり眠ってしまっていた。急いでエンジンをかけ、実家に帰る。
家に入りそっと静かに部屋に入った。部屋着に着替え、化粧を落とす。ふと鏡を覗き込むと、首に内出血の痕が残っていた。首を絞められたと分かるくらいはっきりと残った痕は、すぐには消えないだろう。花恋は引き出しからスカーフを出し、首を隠すように巻いてみた。
(これならいけそう…)
鞄の中から『離婚届』を出し、夫と妻の欄を埋めたあとの残りを記入する。花恋は籍を婚姻前の籍『栗山』に戻すつもりで記入する。記入した後もう少し眠り、朝、目を覚まし首にスカーフを巻いて痕を上手く隠し、リビングに行く。
両親に昨晩、祐介と話して来た事を伝え『離婚届』をテーブルに広げ、2人に証人の欄を書いてもらった。そして鞄に『離婚届』をしまい、花恋は平然と仕事に行く準備をする。
いつも通りの時間に家を出て車に乗り、大きな公園の駐車場に車を停める。まだ少し首が痛く、頭も痛い。花恋は1日休暇をもらい、翌日は金曜日で1日出勤すれば休みに入る。そして、月曜日の朝一番に『離婚届』を提出しに行く予定を立てた。
結城の番号をタップし携帯を耳に当て、コールを聞く。ドキドキしながら結城が出るのを待った。
《もしもし、花恋? どうした?》
(ふっ、もう普通に花恋って呼ぶんだ…)
「おはようございます、結城さん」
《おはよう。どうしたんだ?》
「今日、ちょっとお休みもらっていいですか?」
《いいけど、何だ? 何かあったのか?》
「いえ、明日は行けると思うので、今日1日休ませて頂きます」
《分かった。明日は来るんだな》
「はい…」
《じゃあ、また明日》
「また明日…」
電話を切って、花恋は携帯を鞄にしまいシートを倒して横になる。
しばらく眠って休んだ後、車を走らせファストフード店でドライブスルーをしてまた公園の駐車場に車を停め、食事をした。やっとの思いで時間を潰し、夕方いつも通りに実家に帰る。家ではタートルネックの服を着て首の痕を隠して、食事をしていた。
翌日、花恋は首にスカーフを巻いて、仕事に向かった。首や頭の痛みは無くなったが、内出血の痕だけがまだ残っている。結城は朝から直接取引先に行っていて、電話で仕事の話をしただけだった。
終業時間前にオフィスに戻って来た結城が、花恋の隣に立ち言った。
「おっ! どうしたんだ? スカーフなんかして」
そう言って花恋の首に手を伸ばし、人差し指でスカーフを引っ掛け覗き込んだ。途端に、結城はデスクの上に出していた花恋の鞄と結城の鞄を持ち、花恋の手を掴んでオフィスを出る。
(まずい……首の痕を見られたかも知れない…)
花恋はそう思い抵抗する事なく、結城について行き、結城の車に乗った。結城は黙ったまま車を走らせる。花恋も黙ったままで、どう説明しようかと考えていた。
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