帰り道

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帰り道

 ガラムはただ、蛍が泳ぎを見るしかなく、プールに浮かんでいた。 「ど、どうしよう?」 蛍達がいる向こう岸まで行きたいのだが、上手くて足を動かす事が出来ない。  不意に何かが足を引っ張る。まるで手のようだ。 「ひっ…!」 ガラムは余りの恐ろしさにその場に固まる。 「まずはお前からだ!」 そう水中から聞こえ慌てて逃げ出そうとするが、足を掴まれていて、上手く足が使えない。必死に逃げようと足をばたつかせた。 「宗ちゃん!蛍君!助けて!」 「ガラム!今行く…」 宗治はプールに飛び込もうとするが、蛍に制止される。 「た、助けて…‼︎」 ガラムは足だけでなく、手も動かし進む。 向こう岸が遠く遠く感じる。だけど、逃げなきゃと水が口や鼻、耳に入ろうと気にせずガラムは必死で手足を動かした。  力強く足を掴まれるが、それでも必死で蹴飛ばし、遂に縁までたどり着き、蛍と宗治がガラムの身体を引っ張り上げ、その勢いで水虎も地上に上がる。 「黒筒変化〝縄“」 蛍は水虎を逃すまいと縄でキツく縛り上げる。 「ち、畜生!折角、人間界に来たのに!」 水虎は喚いたが、蛍に頭を蹴飛ばされる。 「おい。閻魔手形がないみたいだな!」 「へっ!そんなもんねえよ!俺は鬼門が開いた時、逃げ出したんだ!」 とにかく、こいつに詳しい話を聞きたいが…。 「お前の他にどいつが逃げ出したんだ?」 「そ、それはよ…ひっ!」 水虎が天を仰ぎ、目を見開いて苦しみ出す。 「グェッ…グッギャアアア!」 「おいっ!」 あっという間に、水虎の身体は消え去る。 「なっ…」 突拍子もない出来事に、一同唖然とするが、すぐに我を取り戻す。 「………田中蛍!」 蛍は呼ばれたかと思うと、宗治に顔面を殴られていた。 「何?いきなり…」 挑発するように蛍は、ニヤニヤしながら指で口端を拭う。 「貴様!次は許さんぞ!」 蛍には何故そんなに、宗治が怒るかがわからなかった。   「あーあ。結局泳ぎの練習出来なかった」 ガラムは大きなため息を吐く。 校庭は日頃の喧騒が嘘のように静まり返っていた。 「…でも、君は泳げてよかったじゃん」 蛍に言われて、ガラムは手をポンと叩く。 「お?田中、一ノ瀬。今帰りか?」 途中で担当の山野に出会う。 「ええ。まあ…」 「そうか。気をつけて帰れよ」 山野は資料を沢山抱えていて、まだ仕事が残っているようだった。 「先生も無理しないでよー」 「大丈夫!俺はタフなんだ!お化けが出ないうちに帰れよー」 「子供じゃないんだから、お化けなんて怖くないよ」 ガラムは笑いながらそう言った。山野に手を振り、校門から出る。  「…って、何で僕まで君んちまで送らなきゃ行けないんだ」 さっき山野に言っていた事は何だったのか。とは言え、本物の妖怪を見た後には仕方がない。 蛍は律儀にガラムをうちまで送り、ついでに近くのなずなの家をゆっくりと見る。 明るい笑い声が聴こえて、蛍は安心する。 通り過ぎる時、背の高い男に打つかる。 「すみません」 蛍は軽く謝るが、男は聞こえていないようだった。だが、男がこう言ったのだけは聞こえた。 「紅菊…」 その時は何の事だか、分からなかった。
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