異世界担当を呼べ! その4

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異世界担当を呼べ! その4

「勇者を呼べ!」 商業ギルド長が叫んだ。 ++++++++++ 「あ、ギルド長さん、お呼びだそうで?」 「ああ勇者君! ちょっとねぇ、マズい様子があってねえ...」 「あっ、すんません! それって再来週の決戦が延期になった件ですよね? 魔王の野郎、家族旅行で参加できないなんて抜かしやがって...厳重注意しときますんで!」 「いや、まあアレはね、事情として僕らも仕方のない話かなって思うからいいんだけどね...」 「そ、そうですか? じゃあそれとも俺なんかやっちゃいました?」 「まあ勇者君が直接どうのって話じゃ無いのかも知れないけどね?」 「はあ...」 「ちょっと聞きたいんだけど、勇者君って、ここ最近では女神様からの神託を受けたりしなかったかな?」 「あー、そうですね...前回の決戦の後で、寝てる時に声を掛けられたような気はします」 「っ! で、ででで、そ、それはどんな内容だったか、思い出せる?」 「ええ、別に普通だったと思います。『真面目に魔王を倒すのです』って、この世界に転生させられた時に言われたことと同じでしたね」 「あのね、勇者君ね、よーく思い出して欲しいんだけどね...その女神様のお言葉って、この世界に降臨した時と、一字一句同じなのかな?」 「えっと、そうですね...まあ、最初の時には色々と転生のこととか、この世界の説明とか受けましたし、もっと長かったですけど。あと、勇者の力で魔王を倒すのですって言われたのも同じ指示ですし...まあ、あえて言うなら今回は『真面目に』なんてアタマに付いてましたけど、違いって言えばそのくらいですかね?」 「ま、『真面目に』って女神様は仰ったんだね?」 「はい、そうですけど、それが何か?」 「えっとね? 女神様が『真面目に魔王を倒せ』って言ったって事はだね、ひょっとして女神様は、いまの勇者君の行動を『真面目じゃ無い』って考えている可能性とか、あったりしないかな?」 「どういう意味ですか? 俺ちゃんと魔王を配下に収めて大人しくさせてますよね? 「配下に収めてるって言うか協調してるって言うか...まあ、そこの表現は置いておくとしてね。僕も、勇者君と魔王は仲良くというか、上手くやってると思うんだけどね。ただ、『倒してる』かって言われると、まあ、そうじゃないよね?」 「えっ! 倒すって、本当にやっつけるって意味ですか?」 「いやいや、もちろん僕もね、勇者君に本気で魔王を倒して欲しいなんてこれっぽっちも思ってはいないんだよ? ただホラ、言葉の上での問題としてね?」 「だから、それって魔王に暴れさせなきゃいいんじゃないんですか?」 「元々、昔は魔王だって暴れてはいなかったからねえ...むしろ、王様が魔王を目の仇にしてたって言うか、追い回してたって言うか」 「でも魔王が大人しくしてる方がいいに決まってますよね?」 「まー、そこはホラ、色々と大人の事情があるって言うかね? ぶっちゃけ内政の問題で国の経済が傾いて、それで社会情勢がどんどん悪化していることから大衆の目を逸らすために、王様が魔王を敵認定して、なんでもかんでも魔王のせいにしちゃったって経緯もあるからねえ...」 「ええっと...その...まるで、王様が自分の失敗を魔王のせいにして押しつけたみたいに聞こえるんですけど?」 「まあ、ここだけの話、実際にそういうことだからね。分かるでしょ? ホラ、外に敵を設定すれば、中がみんなまとまるっていうね?」 「は、はあ...」 「でね、話を戻すけど、勇者君は女神様からの神託で『真面目に魔王を倒せ』って言われたって事でいいんだよね?」 「そうですけど...」 「だからその『真面目に』って言葉の意味を考えてみようよ? 勇者君はいまの状態で、自分の役目を果たしてると考えてるわけだ」 「もちろんです!」 「うん。でも仮に...あくまで仮にだよ? もしも女神様がそう考えていないとすればね、『真面目に』って言う言葉の意味が見えてこないかな?」 ++++++++++ 「まままままま、魔王様、魔王様っ!」 「ん、なにー? 慌てちゃって、らしくないねー」 「そそそそそ、それが新しい勇者が降臨したらしいです!!」 「おっーと、ついに来たか〜」 「えっ? 魔王様、新しい勇者が来ることを予見してたんですか?」 「そりゃあ当然だよ。だってさあ、勇者と組んで、こんだけ出来レースを回してればさー、天界の連中だって気づくでしょ、普通」 「あー、確かに...どうりで落ち着いてらっしゃいますね、魔王様」 「まあ慌てたって仕方ないもんね。どうせ早いか遅いかだけのことだと思ってたしさー」 「なるほど、で、どう対応されるお積もりで?」 「当面は様子見かなー?」 「取り込もうとは動かれないんですか?」 「だって考えてみてよ。いまの勇者が駄目だからこそ新しい勇者を送り込んできたわけでしょ? 僕が女神だったらさー、今度の勇者こそは相当慎重に人物を選ぶよ? 清廉潔白とまでは言わなくても、ちょっとやそっとの誘惑や苦難には屈しない心の持ち主を送り込まないと、あの勘違い坊やと取っ替える意味ないでしょ?」 「ああ、それもそうですね!」 「だから、まずは新勇者がどう動くか様子見だね。それに、いまの勇者との関係がどうなるかってことも関わってくるからさー」 「場合によっては、新旧勇者同士で潰し合うことさえありますね」 「うーん、本当はそういうドロドロしたのはあんまり好きじゃ無いけど、かと言って止めるほどの義理も無いしねー」 「それにしても魔王様、そもそも、どうしてあんなヘタレな勇者の言いなりになる施策をお選びに?」 「彼、すごく弱いから」 「は?」 「いまの勇者君ってさあ、相当弱いよね。勇者力は高いけど、彼がその力で出来ることって大軍を相手に戦闘する時の広域投射力じゃん? 個別の戦闘って言うか、例えば一対一のタイマンなんかには防御力が高い以外は、あんまり意味ないわけでさ?」 「ああ、確かにそういうお話でしたね」 「コッチとしては、いつでもどうにでも出来る弱い勇者は大歓迎な訳だもの。出来るだけ長く勇者の座に居座って欲しかったんだよねー」 「それは仰るとおりですな」 「あと2〜3年は保って欲しかったんだけどなー。まあ贅沢言ってたらキリがないから、臨機応変にやっていこうね!」 「はっ!」 ++++++++++ 「ちょっと、勇者呼んで貰えるー?」 「えっと女神様。確認しますけど、元彼の方じゃなくて新カレの方って理解でいいですかね?」 「モチじゃーん。もう元彼はアタシ的には勇者じゃないの!」 「はあ...いつもの夢枕に立つ系の神託でいいですか?」 「うーん、なんか元勇の時ってさあ、その方式でやってて、コッチの言いたいことって言うか、頼みたいこととか、ちゃんと伝わらなかったって印象があんのよねー」 「まあ、女神様の言い方もだいたいフワッとしてますからね」 「神託でしょー! そんな『○月○日の何時に魔王城の入り口で待ち合わせね!』みたいな具体的なこと言えるわけないじゃん?」 「だれも、そこまで具体的にしろなんて言ってませんよ。指示としてちゃんと伝わるかどうか、という観点で言ってるんです」 「ちゃんと、『魔王と勇者を倒すのです』って言ってあるから」 「背景も説明してありますよね?」 「イェース! 勇者が悪の道に転んだから魔王とセットでぶっ潰してねって言ってあるわよ」 「私、時々思うんですけど元勇も...いえ、なんでもありません」 「だからさー、もうちょっと具体的にって言うか、しっかりとした会話が出来るかんこうにしたいわけなのよね」 「観光?」 「環境! 噛んだだけ!」 「女神様。念のために伺いますけど、勇者への神託にかこつけてあの世界に降臨しようとか思ってないですよね?」 「別に?」 「目を逸らさないっ!」 ++++++++++
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