第一話 ここはどこ?

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 とりあえず、今までのことを整理しよう。吉澤先生、上野先生、理事長が言っていたことを正しいとして、情報をまとめる。  俺は何かの理由で死に、生まれ変わった。その理由はあまりにショッキングなため、覚えていない。さらに俺が生まれ変わった後の記憶もなくなってしまった。  生まれ変わった記憶を持つ人のことを『贈り物』と言い、かなり貴重に扱われる。『贈り物』は、生物が輪廻転生することを証明できる唯一の存在。だが自分が『贈り物』であると主張しすぎると世界中で有名になる可能性がある。俺はそこまで事を大きくしたくないので、ただの記憶喪失者として振る舞わなければならない。  俺が生まれ変わったのは、同じ 鷹野 隼斗 という名前の人物。そういえば、顔も同じなのだろうか。今後鏡があれば確認しよう。  また、この世界は俺が生きていた時代よりも先の時代らしい。その間に女性が減少し、それによって少子化が進んだ。  それを背景にして作られた物が、妊娠薬。男でも子供も産むことができるようになった。現在では大量生産され、子供でも買えるほど手軽な値段で売られている。  しかし妊娠薬には欠点がある。それは生まれてくる子供は男しかいないという点だ。一応まだ女性は存在するものの、貴重すぎるあまりに女神様と呼ばれ崇拝されている。神様呼ばわりの身分ならば、俺みたいな男が女性と会うなんて不可能に近いだろう。女性と幸せになる夢は諦めるしかない。  しかし、妊娠するためには妊娠薬が必要であるならば、デキ婚みたいな事が起こる確率はほとんど無いと言っても過言ではないだろう。それに、妊娠薬の見た目は非常に禍々しく、味も良くない。好奇心で食べる人は少ないだろう。  まぁそうだとしても、俺は男となんかヤらないからな。男しかいないとしても、だ。プライドが許さない。  それに、…男に犯されることの気持ち悪さを体験してしまったから。俺が挿入れる側ならばまだしも、挿入れられる側は嫌だ。変態男にも会いたくない。しかしここは思春期真っ只中の高校生が集う場所。俺も用心しなければならないだろう。  それから気になることがある。それは弟のことだ。弟は俺の知っている性格ではなく、とても冷酷な人になっていた。今世においての俺と弟の関係はどうなっているのだろう。前世みたいに明るい兄弟なら良いんだけど。  とりあえず変な人に絡まれたくないし、風呂も夕食も早く済ませて寝よう。でも時計がないと時間がわからないよな。ちょっと荷物を片付けながら時計を探すか。  考えがまとまったので、俺はゆっくり立ち上がり鞄を手に持つ。それからタンスの方へ向かった。  タンスの中も様々な物が入っていた。普段着、部屋着、下着、替えの制服、体操服、教科書、文房具、時計など。他にも色々とある。とりあえずラブグッズは一番奥にしまっておこう。それからタンスに入っている、高校二年生用の全ての教科書を鞄に入れた。何の授業を受けるのかわからないし。しかし鞄がとても大きいわけではないのに、まだまだ入りそうである。教室に教科書などを置いているのだろうか。  タンスから使えそうな文房具も取り出した。ハサミ、ホッチキス、ノリ、下敷きなど。  それから時計を取り出して、俺はタンスを閉じた。  時計は15時30分を指していた。生徒はまだ授業中なのかな。  まぁいいか。俺が行きたい時に風呂に入って、行きたい時に夕食を食べれば良い。建て前はただの記憶喪失者なのだ、度を超すようなことさえしなければ、ある程度何をしても許されるのではないか。  その後風呂や食堂に行ったのだが、運良く俺の知り合いはいなかったようで、とても平和な1日を過ごしましたとさ。どちらの施設も素晴らしく豪華だった。湯加減は最高だし、料理の味も最高だし。なにより無料だし。  今日はすることが何もないので、早めに寝た。朝礼の時間は知らないけれど…まぁ大丈夫だろう。  本当に疲れてしまった。タンスに入っていた部屋着に着替えて、俺はベッドの上で寝た。
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