第二話 俺は不真面目な生徒らしい。

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 吉澤先生に教卓の前まで呼ばれる。俺は素直に指示に従い、まだ騒がしい教室の中、吉澤先生のもとへ駆け寄った。 「お、来たか。鷹野、橋村。」  吉澤先生は俺と橋村という生徒を視認する。それから俺と橋村に話しかけた。 「鷹野はバスケ部だったんだが、この状態で部活できないからな。悪いが、顧問に相談して今日の部活をなくしてきたぞ。橋村は今日の部活がないんだな?」 「はい。今日はないっす。」  俺はバスケ部だったのか。今日はない、ってことは明日あたりから行かなければならないのだろうか? ちなみに、橋村はどの部活なのだろう。後で聞いてみようかな。 「とりあえず、鷹野がここに馴染めるように学園中を案内してやってくれ、橋村。」  吉澤先生がそう言うと、橋村は少し困ったような顔で問いかけた。 「先生。そうは言っても、何をすれば良いんですか?」  確かに、それはごもっともな意見である。 「へ? あ、うーん。そうだな。鷹野が学園で不自由なく暮らせるようなことを教えてやってくれ。」 「この一回で、ですか!? それは無理ですってば!」  吉澤先生はその言葉を聞いて深く考える。それからニッコリと微笑んだ。 「仕方ないじゃん?」 「はい?」 「仕方ないって。ほらほら、文句を言う男は嫌われるぜ~、何も考えずに雑談しながら散歩すれば良いだけなんだからさ! な?」  橋村は何となく頷くけれど、心のどこかでは納得していないのか、少しばかり首を傾げている。吉澤先生も説得が下手なことだ。  吉澤先生はふっと鼻で笑うと、ポンと俺らの背を押す。橋村は小さく深呼吸すると、たどたどしく言った。 「い、行ってきます。」  橋村はどうやら緊張しているらしい。自分から立候補したのに恥ずかしいのだろうか。もしかして、今世の俺とは不仲だったとか?  橋村はチラリと俺に目配せした。それを合図と受け取り、俺は橋村と共に教室から出て行く。  色々と引っかかることはあるものの、これから広い学園内を探索するのが楽しみではあったため、まぁ良いかと思ってしまった。  とにかく俺達は、吉澤先生やクラスメート達に見送られながらも教室から出たのだ。他のクラスはすでに終礼が終わっているのか、ガヤガヤと騒がしい様子である。俺は橋村に話しかけようとした。 「橋村──」 「シッ、静かに。」  しかし橋村に遮られてしまう。それどころか静かにするよう促した。俺は訳も分からずに従う。それから橋村は小声で俺に指示した。 「俺が良いって言うまで、静かにしといて。」 「どうして?」 「後で教える。」  橋村は先ほどの優柔不断な様子とは異なっており、決断力がある強気な青年のようである。目は鋭く、なにやら賢そうな雰囲気をまとっている。俺はゴクリと唾を飲み込んだ。  逆らっても良いことはなさそうなので、素直に橋村の言うとおりにした。  橋村はスタスタと騒がしい廊下を早足で歩いていく。俺は一歩後ろからただただ追いかけた。  階段を2段ほど登った時である。掃除があまりされていない階段を登りながら、俺は不思議に思った。橋村はどこへ案内しようとしているのだろうか。  それから鉄でできた頑丈な扉が見えて、はっとした。もしかして、ここは屋上なのだろうか。  橋村はためらいなくそこへ行くと、ガチャリと扉を開けた。手慣れているのか、とても自然な様子である。俺は今まで学校の屋上に入ったことがないものだから、とても新鮮だ。セレブな私立校は屋上を自由に使っても良いということなのか。  俺の予想は当たり、そこは本当に屋上であった。広々とした空間に、清々しいほど美しい空気。それから、真っ青の空。今日は快晴のようで、雲一つなかった。  コンクリートを踏みながら、橋村は影になっている壁際をゆっくり歩いた。俺は久しぶりに外へ出たような気がして、この壮大な場に圧倒されていた。  屋上って良い場所だな。  俺がぼんやりしていると、ふと橋村は足を止めた。俺は驚いてその場に止める。 「ふぅ~危なかった~」  橋村はほっと一息つくと振り向いた。少し子供っぽい印象のこのイケメンは、どうやら八重歯があるらしい。たまにチラリと見える。 「危なかった、って?」  俺が聞くと、橋村はぐるりと辺りを見渡してから教えてくれた。 「この学校で目立つと、めちゃくちゃ噂されるんだよなぁ。」  橋村は呟くように言う。俺は尋ねた。 「噂?」 「そうそう。鷹野はマジで交友関係広いから、すぐわかっちゃうんだよ。」  明るく笑い飛ばした橋村は、それから色々なことを教えてくれた。
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