第一話 ここはどこ?

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 さ、さすがに骨が折れた…。もう疲れた。寝たい。  あの後、ひたすら上野先生と理事長から授業を受けた。数学、理科、国語を重点的に教わったのだが、あまりよく理解できなかった。その度に上野先生と理事長が苦笑いをするという、恥ずかしい事の連続である。当たり前だ、ここは国内一位の学校なんだから。普通の人生を送ってきた俺がわかるわけないだろ!  とは言っても仕方ないのはわかっている。だから俺は観念して真面目に授業を受けているのだ。終わりが全く見えない、恐ろしいほど難しすぎる授業を。  一応上野先生が弁当をくださったり、休憩を与えてくれるから耐えてはいるが、その時間が終わるのも一瞬。俺はすぐに勉強をさせられた。  時間もわからないまま俺が勉強していると、ふっと上野先生が話しかけた。 「吉澤先生が来たら終わりだから、頑張ろうね。」  そう言って穏やかに微笑む。吉澤先生! 早く来てください!  そうして上野先生と理事長に見守られながら、問題を解いていた時だった。保健室の扉が開き、中に誰かが入ってくる。 「鷹野~迎えに来たぞ~」  ホストみたいな見た目に、気だるそうな口調。吉澤先生だった。  よし、きた! 俺は問題集と筆記具を鞄の中にしまう。これで今日の勉強は終わりだ。 「お疲れ様、鷹野君。」 「よく頑張ったね、鷹野君。」  上野先生と理事長からそれぞれ褒められ、少し誇らしい気分になる。吉澤先生はニヤリと笑った。 「おめでとさん。んじゃ、寮に戻るぞ。」  俺は黙ってコクリと頷くと、立ち上がった。それから上野先生と理事長の方を見る。 「今日はありがとうございました。」  ぺこりと頭を下げた。朝に俺の乳首を弄ばれたとはいえ、二人は俺に時間を割いて一日中勉強を教えてくれた人。礼を言わないと失礼だろう。  二人は俺の言葉を聞くと、ニコニコと笑った。 「気をつけてね。」  俺はもう一度お辞儀した後、吉澤先生にスタスタとついていく。吉澤先生は鼻で笑うと俺を寮室まで連れて行った。 「お疲れさん。」  俺の同室の相手のベッドに腰をかけて、吉澤先生はぐったりとしている。俺は自分のベッドに座って、お互い向かい合っていた。先生が生徒のプライベートの部屋に入っても大丈夫なのか? 「ありがとうございます。」 「明日からは来れないからな。朝、昼、晩ご飯は食堂に行けよ。あ、食堂は校舎じゃなくて庭園の方にあるから、気をつけな。」  庭園って、『校舎』か『庭園』に分かれていた扉の先の場所だろうか。庭園側に行くと食堂なんだな、わかった。 「生徒はまだ授業中なんですか? 今日、一人も出会ってませんけど。」 「おう、勘が鋭いな。お前は他の生徒の授業が終わる1時間前に終わってるぜ。それに、お前は今日寝坊したから、明日からはもっと勉強する必要があるぞ~」  な、なんだって。こんなに過酷な勉強をもっとしなければならないのか。鬼畜すぎる。  吉澤先生はじっと俺を見つめていた。それから何かを思い出したかのように話しかける。 「あと、鷹野。あまりエッチすんなよ。」 「はぁ!?」  突然何を言い出すんだ。俺は呆気に取られる。 「今の鷹野はそういうのに弱そうだからなぁ。簡単に男にケツ振るんじゃねぇぞ~」  言われなくとも、するわけないだろ!? と言おうとしたのだが、あまりに吉澤先生が真剣な顔をするものだから、口にできなかった。 「この寮の一階に大浴場がある。個室のシャワールームもあるけど、行かない方が良いと思う。変な奴が来るらしいからな。あと、チンコは隠さず堂々とする方が良いぜ。ヤバそうな生徒がいたら顔を背けろよ。」 「ど、どういうことですか。」  吉澤先生はニヤリと笑う。 「考えてみろ。思春期真っ只中の高校生が集められて、気持ち良いことに夢中にならない奴がいるかよ。たまに無関心な生徒もいるけど、ほとんどが獣だぜ。」  確かに俺が高校生だった時も、不良みたいな同級生や、イケメンな同級生は、すぐ童貞を捨てていたような気がする。俺は無理だったわけだが、ずっと右手にお世話になっていたのは確かだ。なんとなくわかるような気がする。  しかし、吉澤先生の言うことが全て正しいならば、風呂に入りたくもないんだけど。それでも風呂に入らないと気が済まないしな。 「とりあえず鷹野、明日の朝はまず校舎の三階に来いよ。そこに2年B組のクラスがある。見ればわかるけどね。そうそう、分からないことがあれば、ウチのクラスの 斎藤(さいとう)に全部聞けよ。斎藤は珍しく真面目な奴だからな。」  吉澤先生は話し終えると、おもむろに立ち上がった。 「教師は一応寮に入ったらダメなんで、そろそろ帰るわ。じゃ、また明日~」  やっぱり寮に教師が入ったらいけなかったんだ。吉澤先生は軽く手を振ると、そのまま部屋から出て行った。  しんと静まり返る部屋の中、俺はこれからどうするかを考えた。
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