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って、恋人の最高な告白に顔を赤らめてる場合かー!演技をしろ、俺!
「そりゃ妬けるなぁ。こんなに目を奪われる人間を見たのは久しぶりだっていうのに」
ニヤつきを抑えながら歯を食いしばって奈賀山さんに目を向けるが、ダメージなんて一切受けてないくらい表情を崩さなかった。
強い、強いぞこの男は。こんなのじゃ引かないよな…。
「朔さん。私にも同じこと言ってたけど、私にはもう目を奪われないわけ?」
すると、ついに口を開いた志乃さんが奈賀山さんの腕を掴んで見た事ないくらい悲しさで目を潤ませていた。
あの志乃さんが悲しんでいる!?
いつも大人な対応で笑みを崩さないイメージだった志乃さんの感情の乱れに衝撃を受けたのは俺だけではなく、奈賀山さんも目を見開いたまま奏良君から離れた。
「えっ、ちょっと、違うって志乃ちゃん!人間一人一人に個性があるからこそ皆違って皆良いだろ?俺はそこを比べてるわけじゃないからな」
奈賀山さんは珍しく動揺して志乃さんが掴んだ手を握り返すように向き合った。
奈賀山さんが此処に行きたい理由の一つとして志乃さんが居るからだ。だからこそ志乃さんの行動がナイスすぎる!
グッと拳に力を入れるみたいにこっそりガッツポーズする。これでどうにか志乃さんに意識がいけば…。
「でも奈賀山さんが言うことも分からないでも無いなぁ!相手に大事な人が居るって言ったって、惹かれるものは惹かれますよ―!現に私も奏良君の魅力に惹かれ中って感じ」
そんな時に横に居たミイナちゃんが参戦する様に奏良君をキラキラとした目で見つめ始めた。
て、敵が増えたー!誰か奏良君の魅力を止めてくれ!
すると、スーツの裾をクイッと引っ張られた感覚にミイナちゃんが居る方へ目を向ける。引っ張ってきたのはミイナちゃんで、何やら目に力を入れて俺に圧をかけるみたいに見てきた。
「ね、光兎さんもファンならそう思うでしょ?」
今の流れとミイナちゃんの言い分は話を合わせて欲しいと言っているように見える。それに魅力を感じてるのは事実だし、俺は直感を信じて頷いてみた。
「そう、だな」
「あ、良い事思いついちゃった。せっかく奏良も居てこんな機会無いし、皆の気持ちが一致してるみたいだから、ゲームでもしましょうか」
何で話を合わせるような行動をしてきたのか分からないまま、打って変わっていつも通り笑顔の素敵な志乃さんに戻っていたが、突然のゲームの提案に数秒この場に静寂が生まれた。
ゲームだって?いきなりなんの提案だ?
「ゲーム!楽しそう!どんなゲーム内容ですか?」
「お酒の場だし、ウイスキー銘柄当てゲームはどう?名前の通りだけど、味の似ている五種類のウイスキーを目隠しして飲むの。飲んだ順番の銘柄を全て当てたら、この中から一人だけお持ち帰り出来るってこと。要するにアフターね。アフターって言っても朔さん、光兎さん、奏良も含まれるってルール。もちろんゲームなんだから誰を選んでも文句無しよ」
「えー、楽しそう!ミイナ賛成です!」
ミイナちゃんは乗り気だが、志乃さんの提案にあんぐりと口を開けた。
お持ち帰りだって?よりによってウイスキー当てゲームって。しかも五種類か…ハードルが高いぞ。
けど、なんでウイスキーなんだ?そこはシャンパンにしそうなのに。俺としてはシャンパンよりもウイスキーの方が飲んでる確率が高いからまだ有利だけど、勝てる自信は無いな。
「最高に燃えるし楽しそうだが、そこはシャンパンじゃなくてウイスキーでいいのか?」
そして、値段なんて一切気にしない奈賀山さんも同じ疑問を抱いたみたいだった。
「今はウイスキーの気分なの」
そう言って大人っぽさを残しつつ楽しそうに笑う志乃さんに釣られるように「そうかそうか」と奈賀山さんは笑顔を向けた。
それより口を合わせようと誘導してきたミイナちゃんは、このゲームをさせるため?なんだか志乃さんの変貌を見てたらグルなのかなと思ったけど。
でもこれで俺が勝てば奏良君をお持ち帰り出来て帰れるってわけか。…あー!勝てるか!?こういう勝負事は昔から弱いんだよ!
「…ゲーム始める前にちょっとトイレ行ってきます」
気合いを入れなければと、さりげなく手を上げながら告げると、志乃さんが「奏良以外のボーイに準備をお願いするからゆっくりしてきて」と優しく言ってくれた。
立ち上がった時、無意識に奏良君へ目を向けると、周りにバレないように軽く口角を上げて笑っているのが分かった。
「俺も裏に行って状況説明してから直ぐこちらへ戻ってきますね」
トイレに向かおうとした時に同じタイミングで奏良君の声が聞こえ、背後から歩いてくる音が聞こえた。
やっと奏良君と二人になれるタイミングだが、今声を掛けたら周りにバレてしまうと分かっていたので、我慢してトイレに向かうことにした。
それでも後ろから歩いてくる音が途切れなかった。もしかしたら奏良君も同じ方向に歩いているのか?と思いながら、賑やかな空間が遠のき、死角になるトイレへの曲がり角で背中を触れられた感覚で振り返った。
「奏良君ー!」
「吃驚させてごめんなさい!…良かった。やっと話せる」
後ろを向いたと同時にお互いの言いたいことが我慢したかのように被った。
「めちゃくちゃ吃驚したからな!なんでこんな…ことに…」
言いたいことはいっぱいあったが、改めてベストを着用したスーツ姿の奏良君に口元が緩みそうになって口数が減っていく。
急いで口元を覆うように手で隠すと、申し訳なさそうにしている奏良君は余計に不安げに俺の顔を覗き込んできた。
「怒ってますか?突然来て、知らない人のふりをしたり…」
「違う、怒ってないよ。俺の問題っていうか…スーツのベスト姿の奏良君がカッコよすぎるとか不意打ちで会えた嬉しさとかで、さっきから口角が不安定すぎるだけだ。…似合いすぎだって」
声量が小さくなっていく中で全て聞き取った奏良君は、目を丸くしたあとに満面の笑みになって背中に両手を回すようにギュッと抱きしめてきた。
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