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こんなにも心臓がドキドキとしたのは、就職の面接の時以来だ。あの時よりも比べ物にならないくらい人生で一番ドキドキしているかもしれない。それは自分が揺れてると錯覚するほど鼓動を感じる。 思わず繋がれている奏良君の手を軽く握り返すと、奏良君はそれに返事をするように、俺の指の甲を奏良君の指の腹が優しく撫でてきた。 「俺の事を好きって言うのと、全部欲しいって言ってたのは分かっていたんだけど…もしかして俺が想像してるよりも独占欲あったりする?」 「光兎さんが想像してる倍くらいあると思ってください。俺も光兎さんに嫉妬しました?なんて聞いてましたけど、人の事言えないんですよ。二人一緒に居ながら阻止する行為だったとしても、抱きつかれてる姿で感情的になるくらい嫉妬しました。愛してる以上の伝え方って難しいですね」 奏良君の悪戯っぽく笑う姿に胸が締めつけられる。 愛してる以上って…そんな言葉を容易く使っていいもんなんだな。…なんて、奏良君に再会する前の俺は思っているだろうな。 それは俺が容易いなんて決めつけてはいけない言葉だ。奏良君の嘘の無い十年間の思いを、容易いだなんて思えるわけがないくらい伝わってきてるから。 そう思えるのも、全部奏良君と出会ってからだ。 奏良君の言う“独り占めしたい”と言う事にも、嫌な気分にならない。それは俺が勝手に嫉妬して奏良君を独占出来ればいいのにな、なんて気持ちが湧いてしまっていたから。これが恋をしているという事なのか。俺の心が奏良君の発言や表情だけで動かされているような気もする。 「もう一つ言いたい事が。因みに俺と付き合ったら、冗談だろうがエイプリルフールだろうが、俺からは“別れよう”って言葉を一切使いませんよ」 まるで奏良君取り扱いよる事前注意事項を、わざわざ俺に話してくれているようだった。 まさか思いを伝える前に別れ話のような事を言われるとは。 奏良君は俺が呆気に取られたような表情を浮かべた事を、どう捉えたのか分からないが、不安そうに眉尻を下げながら苦笑いを浮かべた。 「何か重くてすみません。俺の嘘の無い気持ち伝えた方が良いかなって思って」 「それって…俺次第って事だよな。まさか別れるってフリじゃないよな!?」 「フリじゃないです。ガチです」 戯けたように首を傾げた俺に、即答してきた奏良君に吹き出すように笑ってしまった。 「うん、分かった。それを踏まえて、俺も奏良君に伝えたい事があります。って言うか、さっき聞いたと思うけど。あー………俺、奏良君の事が好きだよ。勿論、恋愛的な意味で。俺も嫉妬してしまうし、早くこの気持ちを伝えたいなと思うくらい。いつか良い人に出会えて恋が出来ればいいなって話だったけど、もしそうなら奏良君がいい。だから俺も奏良君と一緒に居たいよ」 奏良君の瞳をしっかりと見つめながら伝えると、物腰の柔らかい表情で「はい」と、相槌が聞こえる。 「あと奏良君は俺に見合う男になるって言ってたけど、俺は今のままの奏良君が好きだからその必要は無いんじゃないか?奏良君と対等の好きになれてるか分からないし、同情で好きになったわけじゃないって言葉で伝えるのって難しいけど、俺はこの先を奏良君に幸せにして欲しいわけじゃなくて、俺が奏良君と居ると幸せだから奏良君を好きになったって事も分かってほしい」 そう伝えると、奏良君の瞳が見たことないくらい見開いて揺れた気がした。 「それに付き合う前から別れ話なんて寂しい事言わないでくれよー。遅くなってごめんね。……俺と付き合ってください」 やっと言えた。自分の気持ちを伝える事が、こんなにも難しいと頭を悩ませていた事が伝えられた気がする。 そう思うと、心でモヤモヤとしていたものが浄化するみたいに軽くなった気がした。 「付き合ってくださいなんて俺のセリフですよ。よろしくお願いします。俺も光兎さんの事が大好きです」 「…俺も大好き」 「どうしよう…夢みたいです。もう本当に離しませんから」 奏良君は次第に赤らんだまま表情が緩み、屈託のない笑みとはこういうことだろうってくらい眩しい笑顔だった。 お互いに言葉を交わした事で、じんわりと実感していく。そして好きだと伝えているのは自分のはずなのに、言うたびに心に火が灯ったように暖かく満たされていく。 けど、なんだか俺も夢みたいで実感が湧かない。 「俺ら付き合ったって事で良いんだよな。てことはさ…奏良君の彼氏って…俺?」 「はい、光兎さんですね」 「じゃ、俺の彼氏は…奏良君?」 「紛れもなく俺ですね。…なんて、一番信じられてないのは俺ですけど。自分がキャパオーバーしたら、こんなに冷静になるのかって勉強になりました。やばい、光兎さんと恋人同士になったんだ。……やっぱり夢なのか現実なのか分からないので、光兎さんの体温感じていいですか?」 「たっ、たた、体温だって!?」 グッと近付いて来た奏良君と、体温を感じたいという発言に心臓が休まる事が無い。 俺はすぐに奏良君のマンションのベッドで起きた事と、修司さんの『滅茶苦茶に抱きたい』という言葉を思い出して、落ち着きが無くなる。 真っ赤になって目を泳がせている俺に、奏良君は不思議そうに首を傾げると、何かを察したようにクスクスと微笑していたい。 「恋人同士のハグしましょうって事ですよ」 「…あのさ~、そう言ってもらっていいか」 「すみません。…抱き締めさせてください」 微笑む天使は手を広げていて、俺は恥ずかしさで狼狽えつつも、奏良君と同様に手を広げて抱きついた。 奏良君はいつもより強く抱き締めてきて、「光兎さん、あったかい」と、言いながら奏良君の顔が俺の頬に寄ってきた。 奏良君の匂い、久し振りだ。あ…それに奏良君も心臓の音が大きい。けど、心地よくて好きだ。 「夢じゃないって実感できた?」 「うーん…まだ分かんないです」 「えー、本当かよ」 「ふふ、嘘です。実感してます。ただ抱きついてたいだけです。…一つ聞いてもいいですか?」 「ん?なに?」 「光兎さんは体温を感じたいって言った時に何を想像してたんですか?」 「っ…」 すると、耳打ちするように笑みと色気を含んだような奏良君の声と、背中に回された手が少し撫でるように腰辺りまで動いた事と、不意打ちに首元で擦れた奏良君の髪に肩が揺れるほど反応してしまった。
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