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肩がピクッと動いた事に気付いた奏良君が「抱き締める力強いですか?」なんて力を緩めて心配そうに聞いてくるが「そうじゃないよ。大丈夫」と、返す。
違うんだよ、奏良君。やっぱり首元がダメみたいだ。髪の毛が触れただけなのに擽ったくて仕方がない。もしかして奏良君だから意識してるのか?
あの時は舐められたと同時にイったし…そもそも奏良君が擽ったさは快感に変わる事がある。とか言って、弱いところ付け込んで首ばっか触ったり舐めたりするから!
あの時に感じた事のない快感を思い出すだけで、ぶり返すように身体が熱を帯びてくる気がして、話を忘れようと奏良君に意識を戻した。
「いやぁ、別に、まぁ、何を想像してたって…前に奏良君が同じ気持ちじゃなきゃ手を出さない的な事を言ってたし、同じ気持ちになってしまったから、どうなるのかと」
滅茶苦茶に抱きたいと言っていたのは修司さんの勝手な想像なわけだし。それに二人だけの内緒話だから、言わないように気を付けよう。
奏良君が前に俺に言った言葉を気まずそうな顔で掘り返した。すると奏良君は俺の言葉に反応するように肩を押す。
「もしかして怖かったですか?あんな事を言いましたけど、光兎さんは女の人が好きだって知ってるので、いきなり手を出したりしませんよ。光兎さんが良いって言うまで何もしません」
「え、俺が一生手を出すなって言っても出さないの?」
「出しませんよ。そんな事して光兎さんが俺の事を嫌いになってしまったり、居なくなる方が嫌です。もし良いって言っても光兎さんのペースに合わせるので心配しないで下さいね」
穏やかに微笑む奏良君の優しさが胸に染みて、思わず眉を潜めたまま口角を上げる。
だけどなぁ…いつも俺の事を考えてくれて、自分の事は言わない。奏良君は優しいから我慢してそうだよな。
正直、男同士の仕方なんて調べたくらいで、実際にどうなのか分からない。俺と奏良君が…と、想像しただけで羞恥が襲ってくるくらいだ。その恥ずかしさには色んな種類が混じっているが、奏良君が好きだからって感情もある。でも好きだからこそ、身を委ねても良いと思っている。
「居なくならないって。奏良君の気持ちはどうなの?そういう事をしたいと思ってる…よな?」
「俺の気持ち持ち出したら、いいよって言っちゃうんでしょ?光兎さん優しいから」
「優しいのは奏良君だろ!だから奏良君が俺の事手を出したいなら良いって言うか…抱きたいなら俺はそれで良いっていうか…」
「…あれ、俺って光兎さんに抱きたいなんて言いましたっけ?」
少しだけ顔を顰めた奏良君にギクッとする。
やっちまった。知ってる程で話しちゃバレるだろ。
「あー、前の話聞いてたら経験値高そうって思ったから、俺はされる側なのかなーって。憶測を立ててごめんな」
焦らないように告げるが、少し饒舌になってしまう。それでも表情を緩めた奏良君が見えると、「なんだ、そうでしたね」と、申し訳なさそうにしていた。
「抱く側なんですけど…光兎さんが嫌だったら俺の事を抱いていいですよ。光兎さんはノンケだし、怖いだろうなと思ってわざと言わなかったんです」
「…え!?」
「光兎さんなら良いです。一緒に居られるなら、なんでも」
俺は目を丸くして奏良君を凝視するが、冗談で言ってる様子も無い。
返り討ちにするほど嫌で、バリバリに抱いてた天使が俺の為…?健気か!優しすぎだろ!いや、関心してる場合か。絶対無理してるに決まってる。
俺は全力で頭を横に振った。
「俺は抱くのも抱かれるのも経験が無いし、された事ないから怖くないと言えば嘘になるけど、それなら経験ある奏良君に任せたいって言うか、何が言いたいかって言うと…奏良君に抱かれたいなって」
心に決めたものの勢いで、抱かれたい。なんて言ってしまった。これ言っていいのは女性限定だと思ってたんだが。
ジワジワと恥ずかしさが襲ってくる中、奏良君は見た事ないくらい眉間に皺を寄せたと思えば、困惑したように小さく溜息を吐き、そして俺を勢いよく抱き締めてきた。
「わっ!?吃驚した!」
「すみません。こんなことをホテルの裏路地で話す内容じゃないですよね。…はぁ。なんで今から仕事なんだろ。今から仕事で戻るとか無理です」
「確かに俺らホテルの裏路地で告白しあってるのって色気もないよな」
「むしろホテルの真横であんなこと言われるとか…余計に今すぐ抱きたくなるじゃないですか」
もし今日が二人とも予定が無かったら。俺はいいよって言っていたと思う。その現実はすぐ側にあるかもしれないと思うと、耳元で聞こえる甘えたような声に顔が火照って、奏良君の腕の中で体がぶるりと震えそうだった。
「…とりあえず奏良君は今から仕事に戻らないといけないし、仕事落ち着いたらゆっくり出来る時間作ろうよ」
「それってデートしようって誘ってます?」
「そうだよ、誘ってるんですよ」
照れ臭そうに呟くと、微笑したような声と共に「本当に夢見たいです。嬉しすぎて仕事頑張れそうです。何があっても予定を空けます」なんて、声のトーンを上げて言ってきた。
奏良君が可愛くて俺も釣られて笑っていると、ふと奏良君の教えてくれた事が頭を過った。
「あ!そうだ、奏良君、あのさ…」
「どうしました?」
歯切れの悪い声に奏良君は腕の力を緩めるが、俺はギュッと奏良君を抱き締める力を強めた。
「ごめん。す、好きだから離れたくないし、だから奏良君を帰したくない。………はーっ、良かった、言えたー。奏良君が教えてくれた台詞。好きな人出来たら使いたいと思ってたんだよ」
丁度、抱き締めている時と帰り際の場面が被った事に気付いて、奏良君が女性に使ってくださいと教えてくれた言葉を早速使ってみた。
照れを隠すようにヘラヘラと笑っていた俺の緩んだ手の隙を見て、奏良君が肩を押して離れていった。そして奏良君の表情が見えたと思えば、それは一瞬にして見えなくなる。…奏良君との距離がゼロになり、俺の唇に奏良君の柔らかい唇が押し付けられていたからだ。
数秒経って離れると、息を飲むほど美しい天使が俺の様子を間近で見つめていた。まだ分かっていないと判断したのか、奏良君は次に俺の耳の下と首に手を添えると、もう一度顔を傾げて唇を重ねてきた。
「…っ」
うわ、奏良君と…キスしてる。そして奏良君の指が首に当たって擽ったい。
擽ったさに耐えようと肩を竦めながら奏良君の腕辺りの服をギュッと掴むと、奏良君の唇はゆっくりと離れていった。
目の前に見えた奏良君の表情が、たった数秒でいつも以上に色気を纏っている気がして、胸がキュンと高鳴った。
「光兎さん。あんまり可愛い事ばっか言ってると、こうやって俺にキスされますよ」
「…事後報告じゃん。ていうか奏良君が教えてくれたことだぞ」
「はい。まさか言ってくれると思わなかったので心臓が破裂するかと思いました。それにあんな事を俺に言うって事は、キスしてって誘ってるようなもんですよ」
「そんなの習ってないぞ」
あまりにも幸せそうに微笑む奏良君にズル賢いなという文句も消し飛んでいった。
それにしても今日で二回もキスしたのか。ファーストキスもセカンドキスも奏良君と…うわー!
キスってこんな感じなんだ。それにしても奏良君の唇はマシュマロか?柔らかすぎて溶けたと思った。
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