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「キス、大丈夫でした?」 思い巡らせている俺の顔を覗き込んできた天使は、少し不安そうに首を傾げて見つめている。 申し訳ないが、その顔が可愛くて返事を遅らせたくなるほどだ。 「…大丈夫だけど大丈夫じゃない、みたいな。ドキドキして、数秒間でも柔らかくて溶けそうだった。あと奏良君の唇が柔らかすぎて吃驚した。何かしてる?」 「…今の時期に唇が切れやすいので、リップ塗るようにしてるんです」 言うのを躊躇うような口振りだが、俺には想像のつかない美意識に目を丸くする。 女子がよく鞄とかポケットから出して塗ってるやつだよな?奏良君もしてるのか…。 「リップ!だからあんなに唇も天使だったのか。…なぁ、奏良君の唇を指で触ってみてもいい?」 あの感触が忘れられなくて興味津々で奏良君に聞くと、目の前の美しい顔が少し歪んだのが分かった。 「…いいですよ。でも光兎さんにそんな事されたら、今伸ばそうとしている指を甘噛みしながら舐めますよ」 眉を潜めた奏良君の唇に伸ばしかけていた手を一気に引くと、「なっ…何故そうなる!?」と、逃げ腰になり興味が薄れていった。 舐められるという言葉だけで、艶めかしく這っていく奏良君の舌の感触を思い出し、どうしても顔が熱くなる。しかも甘噛みなんて最後にされたの祖父の家で飼ってた柴犬のポチ郎くらいだぞ。 「光兎さんが目の前で俺の唇を触ってるとか堪らないので。それも可愛い行為に入りますよ」 「…そ、そうなのか。けどなぜ舐めたいに直結するんだ。よく分かんないな」 「前に俺が舐めたとき気持ちよかったですよね?意外と気持ちよさそうだなぁって勝手に思ってましたけど。ピアス、良かったですか?」 「!?そんな…そんなことは…無いって」 「ふふ、本当ですか?」 次第に小さくなって煮え切らない声色に、奏良君はクスクスと笑っている。そんな奏良君に恥ずかしさで頬を染めながら目線を下へと移動させた。 そりゃピアス良くなかったと言えば嘘になるけど…。 「それに指先で触れるより、キスして何度でも確かめたらいいじゃないですか。それならいつでも味わえますよ」 そう言いながら俺の唇まで手を伸ばすと、人差し指で唇を撫でてきた。 先程、唇を触ったら舐めると言っていた人間がする行動では無いよな。俺は奏良君みたいに舐める勇気は…まだ無いぞ。 すると奏良君は耳の下辺りに手を添えてきた。その所為で肩に力が入り、視線は奏良君の瞳へと戻される。 まるでキスをしようと誘っているような眼差しだ。そして擽ったさから逃れたくて奏良君の手首を掴んでみるが、やはり離そうとしない。 「あのさ、あんまり首を触るのを止めて頂きたいのですが。なんかあの日から首が変っていうか、敏感になったっていうか…今触れられてる手でも擽ったいから」 恥ずかしげに言うと、奏良君は「え?」と、呆気に取られながら手を離してくれた。が、分かりやすく困惑した表情を浮かべていた。 「それ俺に言わない方が良いですよ」 「えっ?なんで?」 「そこが気持ちいいって教えてくれてるようなものですよ。そんなの…余計に触りたくなります」 「なんだよ、意地悪か…?だから気持ちいいんじゃなくて、擽ったいだけなんだって」 擽ったさが快感に変わると言っていた奏良君の言葉を忘れたわけではなかった。けど、あんな一回で気持ちいいなんて思ってしまうのも…如何なものなのか。 「じゃ、キスするのは?嫌ですか?」 「そんな狡い質問するなよ〜。前に奏良君が俺にキスするのを悩んでたけど、結局しなかった事があったじゃん?…本当はちょっと期待したんだよ。する前から期待してる奴が…嫌なわけないよ」 あのとき実はこう思ってた。なんて恥ずかしい事を暴露するのが抵抗無いわけない。手の甲で赤面した顔を隠すと、奏良君は「隠さないで。俺に顔を見せてください」と、隠す俺の手を掴んで解く。そして表情を確認すると、同じように頬を少し染めて、奏良君がうっとりしたように微笑んでいた。 「光兎さん…本当可愛い。好きです。どうしようもなく光兎さんが好きです。なんでこんなに俺の心をくすぐるんですか?これ以上夢中にさせられたら、どうなるか分かんないですよ」 「そんなこと言われたって…でもなぁ、何言われても、可愛いのは奏良くっ…っ」 そこまで言い掛けた途端、「可愛い」という言葉に反応し、むくれた表情になったのが分かるが、すぐに俺の発言を塞ぎ込むように唇を塞いできた。 話している途中で塞がれた事で、少し開いた状態で唇を塞がれる。すると、それを狙っていたのか、隙間から口内へ舌が侵入してくるのが分かった。 「…っ!」 驚いて目をギュッと瞑ると、舌についたピアスが舌先に当たったと思えば、行き場を失っていた俺の舌を絡めとってきた。 あ…ピアス…? 舌とピアスの突起が這うような感触にゾクッとする。柔らかい唇と、直に奏良君の体温を味わっているくらい熱が伝わる舌。さっきよりも離れてくれなくて、甘さすら感じてしまうほど溶けそうだった。 そして絡めとったと思えば、無防備に奏良君に委ねて熱くなっている舌を水音が聞こえるくらい舌先を啜ってきた。 「ん、ふぅっ…」 お、音が…!俺、変な声出すな!なにこれ、恥ずかしい。 いつもより強引に攻めてくる奏良君に混乱するが、覚束ない舌が奏良君の舌で翻弄されて動くたび、息継ぐような声が少し漏れてしまう。 奏良君は俺の声を聞くと、更に頬に寄せていた手を滑らせ、首元に添えてきたのだ。 「…!…ん、ぅ…っ」 奏良君…わざとだろっ。 指の腹で首の皮膚を撫でると、肩が跳ねるように反応する。背筋が反るほど口内と首に熱がこもり、流石に降参と言うように頭を緩く横に振る。 奏良君はそれに気付き、引き気味になっている俺の腰に手を添えると、もっと近寄ってと言いたげに抱き寄せてきた。 次から次へと俺を求めるような仕草に既に頭がパンクしそうだ。ついていけない。しかも体の力が抜けそうになる。これは…気持ちいい。ずっとやっていると童貞にはキツイ展開だ。下半身を奏良君にくっつけたくない。 やっぱり俺は奏良君の舌の感触が好きなのか?それか、奏良君が好きだからか。…後者だといいな。 俺は初めてを味わっている中、少しでも奏良君についていきたくて、俺が出来ることは奏良君の背に手を回す事だった。 手を回したことに気付いた奏良君は、一瞬だけ動きが止まった事に気付いた。 「…?」 俺は不思議そうに目を少し開ける。首元に何か動いているような気がすると、塞がれていた唇と舌が離れた。 なんだか首元に余裕が出来たな…と気付いた時には、今の一瞬で片手でネクタイを緩め、シャツの第一ボタンを慣れた手つきで外していたのだ。たった数秒だ。なんて早業だ。 「い、つのまに…」 思いのほか緩んだような声色の所為で、甘く溶けそうな深いキスを味わった後だと分かりやすい声。 そんな俺の様子を見た奏良君は、辛抱出来ない顔付きのまま首元に唇を寄せてきたのだ。
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