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「?え、そらく、ん…ひ…ぁ」 首元に顔を埋められると、柔い唇が押さえつけられる。そしてうなじから身体へと支配した快感を思い出すような感触が首に感じた所為で、小さな悲鳴のような声が漏れた。 奏良君はキスを落とすだけではなく、喉仏辺りを舐め上げてきたのだ。 熱い舌と皮膚に這うような金属の突起物に、追いうちをかけるように身体中が熱で犯されてきた。 「ぅ…そ、らくん!」 狼狽ながら急いで奏良君の両頬を掴んで離すが、いつの間にか腰に回された手によって、あまり距離が取れず、至近距離で奏良君と目が合う。まだムスッとしている奏良君の顔が見える中、肩が揺れるほど息が上がっていた。 その時に奏良君を阻止しようと頰に添えた手の親指が口端に少しだけ触れていて、赤い舌が口内から覗かせてきたと思えば、親指を遠慮なく舌先で舐めてきたのだ。 「ちょっ…!」 チラッと見えたシルバーのピアスで口内を掻き回されたのかと思うと、ぶるりと身体が震えて溜まった熱で胸が焼けそうだった。何度も味わう人の舌で舐められる感覚が、擽ったさから快感に変わる瞬間をむかえてしまっているんでは無いかと思ってきた。 立て続けに攻め立てられる行為に、これでは自分が落ち着ける気配がない。 「ちょっと待て!分かったから!落ち着けって!あ、あんな深いキスをするなんて聞いてない…しかも舐めすぎだって」 何が分かったのか分からないが、とりあえず奏良君を止めたくて、動揺を隠しきれない顔で訴える。 急いで両手を離すが、まだ納得のいかない様子の奏良君の表情は崩れることはない。そして抱き締めるように腰に回した手も離す気配も無い。 「じゃ、これから深いキスをする時は言いますね?」 「いや、言いますって…こ…これからもあんな感じのキスを?俺、いつか腰を抜かす日が来るかもしれない」 「程々にします。でも、もし腰抜かしても俺が責任取るので安心して下さい」 「キスで腰抜かして奏良君に迷惑掛けるとか格好悪いな…」 自分のそんな姿を想像しただけで、呆れて顔を顰めてしまう。ていうか止める気は無いのかよ。 そんな俺に微笑しながら首元に手を伸ばし、シャツのボタンと緩んだネクタイを丁寧に直してくれた。 「光兎さんになら迷惑掛けられたいですけどね。俺に甘えてもいいんですよ。……よし。突然剥いですみません」 真面目な顔でネクタイが曲がってないか確認している姿はまさに奥さんで、胸にズキュンと何かが刺さったまま「ありがとう」と、礼を言う。 やっぱり奥さんじゃん。けど俺は奥さんに抱かれる予定という訳のわからない関係性だけど。そして、さっきの深いキスの意味は俺が可愛いって言ったからか?確かに、あのキスは可愛いってもんじゃなかったな。 それにしても、甘えるか。付き合ってるから甘えていいよって事だと思うが、甘えるって皆はどうやって甘えているんだ。 「そうだ。言うタイミング逃したけど、前髪かき上げてるの格好良いよ」 思う事はあるが、可愛いけど格好良い所もいっぱいあるよ、という気持ちを込めて、いつもと違う髪型を褒めてみた。 「本当ですか?ありがとうございます。…毎日これにしようかな」 明らかに頰を染めて嬉しそうにキラキラと天使の笑みを浮かべている姿に悶絶しそうになる。 あー、ごめん!やっぱり奏良君は可愛いよ。 奏良君の可愛さに胸のときめきが止まらないでいると、近くを通りかかった人の声で、ここが外だという事を思い出したのだ。 あんなやらしいキスを外でしてしまった。良かった…人通りが無い場所で。あんなやらしいキス、十八禁だよ。 ハッ…そういえば、修司さんと街凪君は大丈夫なのかな。まさかと周りを見渡すが、人の気配はしない。それに奏良君と街凪君は仲が悪そうだったし。 「何かありました?」 険しい顔で周りを見渡していると、それに気付いた奏良君も一緒に周りを見渡していた。 「いや、一つ気になったんだけど…何で街凪君と仲悪いの?」 すると、奏良君は直ぐに不愉快そうに顔を顰める。 「俺がモテてるのが嫌みたいなんです。自分だってモテたいのに他の子が俺にいくから。嫉妬ですよ、嫉妬。それで俺に余計な干渉してくるんです。逆恨みに近い感じで、嫌がらせしてるんです」 「え!?奏良君がモテて自分がモテないから怒ってんの?街凪君って既婚者だよな?」 「本当クズですよね。だから光兎さんと二人きりでいた時は気が気じゃなかったんです。俺の好きな人ってだけで目を付けないわけがないと思ってたんで。今回は修司さんの仕業でしたが、あんなくだらない人間のくだらない事に巻き込んですみません」 「い、いやいや、俺は別に大丈夫だけど…奏良君、目がまた殺気に満ちてるよ」 「あの男の話は止めましょうか。殺意しか生まれません。もしまた何かあったら俺にすぐ言ってください。そして見つけたらすぐ逃げてくださいね?」 強く訴えてくる奏良君に頭を上下に振った。 それにしても、街凪君は何してんだよ…。でも、奏良君が怒ってるのって意外だから、そんな一面も見れて嬉しいような。 「あ…奏良君。そろそろ戻らなきゃいけないよな?」 奏良君とのんびりと話しているが、そういえば仕事中だったと思い出す。心配して腕時計を確認すると、眉を寄せて曇った表情になり、俺を引き寄せるように抱き締めてきた。 「奏良君?」 「光兎さん、どうしよう。俺の身体が光兎さんを離したくないって訴えてるので、離せませんね」 切なそうに甘える声が耳元で聞こえると、子供のように肩口で額を左右に振って押し付けてきた。 「何言ってんだよ~。でも待たせてるんだろ?」 苦笑いを浮かべて奏良君の頭にポンポンと撫でるように手を置くと、更に強く抱き締めてきた。 「はぁ、やだな。本当に離れたくない。………来週に仕事落ち着くので、本当に俺と会ってくれません?デートしましょうよ」 「え、そりゃするよ!じゃ、何処行くかとか、待ち合わせとか、ラインで決めようよ。…嬉しい。俺、初めて好きな人とデートする」 また奏良君に会える約束が出来た。来週の事を思うと、心臓がドキドキと高鳴って嬉しさを表情に浮かんでしまうほどだ。すると、抱き締めていた力が緩んで奏良君が離れた。 「次会えるとか、そういうの…もどかしくないですか?」 「?…うん、そうだよな。俺も来週が待ち遠しいよ」 「例えば、連絡して待ち合わせしなくていい方法あるじゃないですか。これから……いや、なんでもないです。調子乗りました。来週まで待ちきれないですねって言いたかっただけです」 煮え切らない様子の奏良君は無理に笑顔を浮かべているようにも見えた。 え?何だ今のはぐらかし方。待ち合わせしなくていい方法?これから……ちょっと待て、まさか一緒に住もうとかそういう話!?それって同棲って事か!?俺の考えすぎ?付き合って初日だぞ?こんなもんなの? それに同棲するって事は…俺が休みの日は、ほぼ横の状態で過ごしてる姿がバレる!?無理無理!奏良君にそんなのバレたら『光兎さんがこんな人だなんて思わなかったです。軽蔑します。別れましょう』って言われる未来が見えるぞ。 俺は冷や汗を感じる中、奏良君の「そろそろ戻りますね。離れたくないですけど」という不貞腐れた声で我に返った。 「う、うん。頑張ってね」 「…最後にもう一回キスしていいですか?」 奏良君は顎下に指を添えると、クイッと上にあげてきた。その行為だけでもドキッとしてしまうのに、甘く誘うような声色と首を傾げて見つめている表情に断れるわけがなかった。 「深いのはダメだからな…」 これ以上されたら下半身が本気で元気になってしまうと思い、赤らんでいるであろう頬が恥ずかしくて目線を逸らす。そして「はい」と笑みを含んだ奏良君の声が聞こえると、柔らかい唇を押し付けられる。 それだけでも恥ずかしくて熱くて溶けそうで、離れなきゃいけない事は分かっているのに…奏良君が愛おしくて、癖になりそうなほど心地よくなっていて、もう少し味わっていたかった。
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