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「俺も奏良君に会いたいと思ってたから嬉しいよ」 甘えたな奏良君に笑いながらも告げると、ゆっくりと離れた奏良君の緩んだ表情が見えた。 頰が少し赤くなっているのは、外の寒さの所為か酒の所為か。 「本当に?光兎さんも俺に会いたいと思ってました?」 「?…うん。思ってたよ。眠くても会えるなら会いたいと思ってたから。それに外歩いたらクリスマス一色に染まってるじゃん。去年までは自分と無関係な事だと思って何処か疎外感あったんだけど不思議な事に奏良君に会いたくなるんだよな。初めてだよ、このイルミネーションを奏良君と一緒に見れたらな〜…なんて思ったのは」 思わず饒舌になってしまうほど照れ臭くて、ぎこちなく笑みを浮かべる。すると奏良君の表情が切なげに眉尻が下がっていくのが見え、もう一度強く抱き締められた。 「こんなに長く感じた一週間は初めてで、ずっとずっと光兎さんの事ばっか考えてました。でも光兎さんも俺のこと思っててくれたみたいで嬉しいです」 耳元で囁く声さえも切なくて、一体何に切なさを抱えているのか分からなかった。 だが、俺も奏良君の姿とか、表情とか、声だとか、会えた嬉しさが重なって…胸がギューッと縮むような痛さが襲ってくる。その痛さは何故か切なさも混じっていて、もしかしたら奏良君も同じ気持ちなんじゃないかと思った。 「奏良君が好きだよ」 負けじと奏良君を抱き締める。そんな言葉を好きな人の前で言うのは恥ずかしいけど、奏良君の好きだという言葉に同じだよという事を伝えたかった。 「俺の方がもっと好きですよ」 何故か張り合うように言ってきた奏良君は肩に顔を寄せ、こめかみから耳の下、そして首元までチュッと音を立てながら奏良君の柔い唇が降り注いできた。 「なにそれ…っ、くすぐったいって」 擽ったさから少し笑みを含みながら告げる俺に気付いた奏良君も、「可愛いです」と言いつつ微笑しながら行為を続ける。奏良君の笑った吐息が更に擽ったさを強調した。 それから背中に回された奏良君の手が背中から腰へと撫で下ろされていく。体のラインを手のひらで確かめるように撫で、服越しではなく直接触りたいと言いたげに弄っている行為にギクッとした。 それでも奏良君の触る感じがいつもと違うような気がして動揺し始めた。どことなく雰囲気が甘くなっていくのが分かり、これから抱かれるのではないかと緊張が走った。 わ、わ…とても…触られてるぞ。これが恋人同士の触り方か。まさか…もう始まってる?ここ玄関ですが? 次に奏良君が俺の後頭部に手を添えると、流されるまま後ろへ押される。添えられたのは玄関の壁にぶつからないようにしてくれた奏良君なりの優しさのようだ。 そのまま玄関の壁に押し付けられたまま奏良君と目が合うが、目付きや表情がいつもと違って見えてドキッとしてしまった。まるで潤んだ瞳の奥に熱を孕んでいるようにも見えた。 それは天使や可愛い奏良君とは遠い存在に見えて、背筋が伸びてしまうほど。思わず奏良君の頬に手を添えながら美しい顔を凝視した。 「そ、奏良君…いつもと違うな」 「そうですか?俺が生きてる限り何も変わらないですよ。光兎さんと出会った頃から愛してます」 そう言いながら奏良君の冷えた手が俺の添えた手を掴んで唇に寄せると、手の甲に口付けてきた。 「よくもまぁそんな恥ずかしい事を平然と…そういうことじゃなくて、なんていうか…」 逐一口説くように恥ずかしい行為や言葉を言ってくる奏良君に赤面が止まらない。自分ならこんなにスムーズに出来る自信が無い。 「もしかして、今ものすごく光兎さんに欲情してるから違って見えるのかもしれませんね」 「そ、そうかもしれませんね。今の奏良君は色欲天使ってことね」 酔ってる所為でいつもと違う事を奏良君が白状するが、はっきり言われてしまうと狼狽てしまう。 照れている俺を見据える奏良君は「色欲天使?そんな天使居るんですかね」と、色気を纏って優しく笑いながら頬を包み込んできた。 あ、キスされる。と思った矢先に唇を塞がれた。一週間ぶりのキス。何処か自分でも待ち焦がれていたのか、じんわりとした熱が唇に広がっていく。意外とすぐに離れた奏良君の目付きは真っ直ぐに俺を見ていた。 「光兎さんの人生で好きって言ったり言われたり…キスとかセックスしたりする最後の相手が俺ならいいのに」 「セック…!?突然どうした!?プロポーズみたいなこと言ってきて。…でも俺の相手も奏良君が最後なら、きっと幸せだろうなと思うよ。だから奏良君がいいって思ったんだから」 突然の出来事に目を丸くしながら軽く笑みを溢すと、奏良君も少しだけ口角を上げながら、俺の左手を掴んできた。そのまま手を寄せて左薬指に唇を落としてきた。 「それなら俺と結婚してください」 真剣な眼差しで見つめる奏良君の言葉に、五秒間だけ反応が遅れるように止まってしまった。 「え……え!?」 「恋人になれた事でも嬉しいですけど、俺は光兎さんと再会してからプロポーズのつもりで口説いてましたよ。思いが通じ合ってるって分かっているのに、ずっと光兎さんが欲しくて堪りません」 あまりに突然の出来事でも、考えてみれば心当たりがある。少し前まで奏良君が濁して呟いていた同棲の話も、そういうこと?なんて思ってしまう。 確かに酔った奏良君の本音を聞けるのは良いんだけど…まさか会って五分足らずでプロポーズされるとは。そして何度も言うが、ここ玄関なんだよな。 奏良君は冗談を言っている様子も無く、視線が痛いくらい俺を見つめている。 「光兎さんも、これからずっと俺だけって約束して?」 優しく頬を包む手とは裏腹に、やはりいつもより少し強引な奏良君に内心ドキドキしてしまう。けれど…そんなの答えは一つしかない。 「そうだな…紫川 光兎?うーん、やっぱり篠目 奏良かな。俺も奏良君だけだよ。こんなに一途に俺の事を思ってくれて、幸せな気持ち分けられてたら俺だって奏良君と居たい。そんな人からずっと一緒に居たいって宣言してくれるのってもっと幸せじゃないか?だから、これからも宜しくな」 ニッと笑いながら告げ、奏良君の唇に向かってキスを落とした。奏良君は信じられないように目を丸くすると、勢いよく抱きついてきた。 「今の言葉、絶対忘れませんから。どうしよう、俺の命日って今日ですか。幸せすぎて死にそうです。後、柴川 光兎がいいです」 抱き締めながら耳元でちゃっかり要求してくる奏良君に笑みが零れてしまった。 “因みにアイツ普通に会話してるけど、次の日一切覚えてないから” それと同時に修司さんの言葉を思い出してしまった。 そういえばそんな事言ってたな。あれ…まさか今までの会話って俺しか覚えてないってオチ?絶対忘れないって言ってるけど、覚えてないんじゃないか!?
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