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「あー、でも篠目奏良でもいいですね。…いや、やっぱり紫川光兎…………うん、やっぱり光兎さんと一緒ならどっちでもいいですね」
どちらの苗字にしようかと真剣に悩んだ挙句に可愛い発言を投下した奏良君に参ってしまう。なんでこんなに可愛いことをスラスラと言えるのか。
それでもこんなに大事な話をしているのに奏良君は目を覚ましたら記憶が無い。それなのに話を続けていいのかと葛藤していると、抱き締められている手が離れ、緩んだ表情のまま首を傾げた。
「光兎さん。俺らはもう結婚したわけなので、これから一緒に住んだ方が良くないですか?」
話の続きは明日にしようか。そう言って話を止めようかと思ったが、どんどん話が進んでいく。奏良君は俺の顔の横に突き迫るように両手を置いて塞いできた。
遂に一緒に住む話も出てきてしまった。あの時は言いづらそうに濁していた筈だが、今は酒の所為なのか関連付けて聞いできているようにも見える。結婚してるからって絶対に一緒に住まなきゃいけないと決まったわけでは無いと思うが、俺でも分かるくらい奏良君の下心が見える。そんなに一緒に居たいのか。なんて可愛いんだ。
…というか俺らはもう結婚してるわけね。
「あー…あのさぁ…俺は良いんだけど、一緒に住み始めたら俺に愛想尽かす可能性あるかもよ」
「…愛想を尽かす?」
「俺の事どんなイメージで捉えてるか分からないけど、見ての通り奏良君みたいに料理が上手なわけじゃないし、休みの日なんて家の中で横の状態だし…あ、勿論家事全般はやるけど、前に奏良君の無駄のない完璧な生活感を見てしまうと…大丈夫かなと。あと、一応俺も人間だからオナラとかゲップもするよ!?だから清純派アイドル的なイメージは持たないでくれよ!因みに俺は十年後は三十八歳、二十年後は四十八歳だからな?分かってる?」
ひっきりなしに話すと、奏良君は呆気に取られた様子で数回瞬きをし、内から笑いがこみ上げてくるように次第に表情を崩し始めた。
片手で口元を隠しながら「ははっ…清純派アイドルって…っ、光兎さん面白い」と、笑っている奏良君に表情を曇らせる。
「笑い事じゃないぞ。奏良君の愛は伝わってくるけど、本当に本当に本当に俺でいいのか再確認なんだよ。一緒に住んだら、なんか違うとかあると思うぞ。それに俺は奏良君より年上だしさ…」
「深刻そうな顔してるから何かと思えば、そんなことですか?俺の光兎さんへの愛を見縊ってもらったら困ります。寧ろそういう一面が一番見たいんですよ」
「え、そうなのか?」
なんて事ない顔でクスクス笑う奏良君は「光兎さんの寝顔も見たいなぁ。俺が知らない光兎さんを全部知りたいです」と、呑気に願望も告げてきて、次は俺が驚く番だった。
「それに自分だけ歳を重ねるわけじゃないんですから。俺らはもう先輩後輩の関係じゃないですよ。前も言いましたけど、どんなことがあっても俺からは別れようなんて言う事は絶対無いし、光兎さんからの別れようって言葉も受け入れないので」
「ん?おかしいな。前は受け入れないなんて言ってなかったけどな。…ま、まぁ、それは俺も同じだからポジティブな要素として受け入れるけどさ」
「ふふ、だって離れるのはもう嫌です」
そう言って笑ってるけどさ…もう嫌だと言う事は、やっぱりスマートフォンをボチャンしたの相当根に持ってるんだろうな…。
すると、俺の表情を見ながら奏良君は何かを思いついたように、「あ、そうだ」と言いながら、顔を近づけてきた。
「そんなに俺の愛が伝わってないなら見ますか?」
「いや、伝わってるんだけど…見るって、なにを?」
「前に俺が光兎さんで抜いてるって言ったじゃないですか。…俺が光兎さんを思いながら一人でシてる所、見ますか?」
次は驚愕して十秒間くらい固まった気がする。
「なっ………な、なに言ってるんだよ!一人でするって…いやいやいや!」
顔だけでは無く、全身に熱が一気に回った気がした。一瞬だけ“その姿の奏良君”を想像してしまったのだ。俺は頭を必死に横へ振るが、突飛な事を言い出した奏良君は何故か楽しそうに笑みを浮かべていた。
そ、そうだったー!絶賛酔っ払い中だった。本当に普通に会話出来てるから違和感が無いんだよ…!
「頭の中光兎さんでいっぱいにして、最後には光兎さんの名前呼びながらイく瞬間を光兎さんに見られたら、どんな気分なんでしょうね。光兎さんにも俺がどうなるか見ててほしいな」
紅潮しながら困惑している俺の耳元に近寄ると、ピアスを押し当てるように耳朶を舐めてきた。同時に身体を寄せてきたことで、奏良君の下半身が押し当てられてきた。
「ゃ…っ…ちょちょちょっ…!な、なんだそのプレイは!奏良君、一旦落ち着こう。な?そんな事し始めたら恥ずかしさでずっと目瞑ってるからな。もう十分に伝わったから。奏良君が良いなら一緒に住んでもいいし」
瞬時に肩がビクッと跳ねてしまい、咄嗟に奏良君の肩を押し退けるが、奏良君の気持ちを抑えるように肩をポンポン叩いた。
「そうですか。残念です」と、言いながらも、全く残念そうに見えないのは、一緒に住むと約束したからだろうか。…これも明日になれば覚えてないんだろうな。
それにしても酔っ払いのスケベ天使は恐ろしすぎる。危うく天使のオナニーを見る所だった。冗談なのか本気なのかも分からない。でもそんな事をしている奏良君を想像しただけで何か…いやいや想像するな。明日になったらオナニーを見せられる所だったと言ってやる。
しかも耳を舐められただけじゃなくて首元に奏良君の吐息がかかっただけで身体が熱い。…勘弁してくれよ。俺は童貞なんだよ。
「それより奏良君。俺らずっと玄関で会話してるって気付いてた?しかも奏良君の体冷えてるし、とりあえずリビング行こう。寝る時の服も準備してるし、酒入ってるなら湯船は避けた方がいいだろうから…シャワーだけでも浴びて温まった方がいいよ」
「そこは俺が温めるって言ってほしい所ですね。もしくは一緒に入るとか…ダメですか?」
奏良君は目を潤ませながら腰に手を回して抱き締めるように告げてくる。まるでおねだりしているようなあざとい表情に、俺は「ウッ」と変な声を上げてしまった。
何でもかんでも俺と何かをしようとしてくるな。何かスケベな事をする口実のようにも思えてきた。
「残念ながら俺はもうお風呂入ったので」
「ですね。さっきから風呂上りの良い匂いがします。でも、もう一回俺と入りましょう」
「ダメです。今でも緊張してるのに。それに俺ん家の風呂場狭いし。奏良君の風呂場と比べたら吃驚するかも。…じゃ、奏良君がお風呂で温まってきたら…俺が温めるから」
「その言い回しズルいです」
「ズルいのはどっちだ!」
「分かりました。それなら楽しみにしてます。…そして光兎さんの部屋見るのも楽しみです。何かドキドキするな」
そう言って口角に楽しさを露わにする奏良君。
俺は色んな意味でドキドキしまくりだよ。そして勢いで言ってしまったけど、温めるってなんだよ。温感ローションならあるよ、なんて洒落も言えたもんじゃない。そして自分から恥ずかしさを晒す事になる。とりあえずローションは引き出しの中に隠したけど。
それにしても酔っ払い奏良君に俺はついていけるのか。そもそもこんな状態でエッチな事してもいいのか。長い間俺に片思いをしていた奏良君の気持ちを考えると、知らない内に俺らがセックスしてました。みたいな状態になってたら…流石に酷じゃないか。けど今ってそういう雰囲気っぽそうだし、ここまで来て寸止めも流石に無いだろ。
どうしよう。どうしたらいい。どうする、俺。
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