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夜のひんやりとした空気の中をがしゃらに走った。 走って、走って、そしたら時間とか風景とかに交ざりあって、消えてしまえるような気がして。 車の音も、話し声も、どこかの家からか聞こえてくるテレビの音も、関係なしに、ひたすら走った。 夜の闇なんて怖くはなかった。 怖いのは、この世界に取り残されることだった。 誰もが前に進むのに、変化のない自分が1等嫌で、誰かが消えていくのに、置いていかれるのがとても、寂しくて。 がむしゃらに走った。 青春なんてものはとっくに過ぎ去った。 若い頃の過ちなんて言葉で収められる、若さなんてなくなった。 喫茶店で、珈琲が飲めなくてメロンソーダを頼んだら、連れ合いに子供みたいと笑われた。 大人になりそびれた、子供。 子供のまま成長できなかった大人。 後ろ指を刺される。 誰かが嘲笑ってる気がする。 本当は、そんなに誰も見ていないことは知ってる。 華々しく新しいスーツや学生服に身を包んだ人達を見ると、心がザワザワとして、ダメだった。 キャップを被り、マスクをして、目線を逸らして、華々しい人たちの横を通り過ぎる自分が、汚泥のように感じた。 朝が怖い。 空気になりたい。 消えて、しまいたい。
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