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病室のアルコール臭はやけに鼻に纏って離れなかった。 何度も鼻を鳴らして慣れようとしたが、無意味なことだと悟って諦めている。 それよりも今は、気にかけるべきことがあった。
高空秀斗は、固そうな白いベッドに仰臥する弟の飛翔を見遣った。 飛翔の右足は今、分厚いギプスで覆われて吊られている。
飛翔は秀斗と目が合うと、気不味そうに逸らした。
「……悪いな、兄ちゃん。 わざわざ来てもらって」
秀斗は「気にすんな」と首を振り、大抵の者が言うであろう心配を口にした。
「大丈夫なのか。 足の方は。 折れたんだろ」
「大したことじゃないよ。 会社の階段からすっ転んで、軽く折っただけだから。 退院も早いんだってさ」
「そうか」
「会社の方も、オレの復帰を待ってくれるって話だし……まあ、安静にしてるよ」
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