現在から

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 マホガニー色の扉が開放されると、春の香りが溢れかえるようだった。 「ここか……」  プレーントゥを履いた一人の客人が、円形に造られた板張りの画廊を鳴らす。 すると、受付にいた二つの人影がすっと立ち上がった。  客人の透徹(とうてつ)された眼差しを送られた人影──若い男女が揃って頭を下げる。 「ようこそ、お越しくださりありがとうございます」  若い女の玲瓏(れいろう)な声は、モダンな雰囲気を醸成(じょうせい)する画廊にすんなり溶け込んでいた。 「どうぞごゆっくり、お(くつろ)ぎくださいませ」  若い男の声は多少はきはきしすぎるきらいはあるものの、それが客人との間で交わされる空気を壊すことはなかった。  客人は二人の慇懃(いんぎん)な態度に頷きを返し、入場料を支払ってパンフレットを受けた。 三つ折りのそれには、『舞うは秀でた花。飛ぶは広い海。』と画廊のテーマが表されていた。
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