現在から

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 画廊を時計回りに閲覧し始めた客人の瞳が捉えたのは、一枚の絵──もとい、だった。  意表を突かれた客人はどこか新鮮な気持ちで、そのパズルを眺める。  どこまでも続く蒼穹(そうきゅう)に、桜の鮮やかな桃色が舞っていた。 そして、麗かに差し込む陽光の下には桜吹雪に祝福されるようにして、一人の男性が立っている。  客人は、ある違和感を感知した。  このパズルは……。  怪訝に思い、先に続く画廊の他の作品も一瞥した。 総数は三十を超えているが、そのどれもが眼前の一枚に倣ったでモルタルの壁にかかっていた。 「全てが、こうなのか」  口腔内に漏れた低音の独り言。  改めて桜吹雪のパズルに目をやった。 『春来の軌跡』と題されたプレートの横には、短い文章でこう綴られていた──。
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