二章

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「そんな大それた怪我でないので心配無用ですよ。 会社の階段からすっ転んで軽く折っただけですから。 俺より出来のいい弟なんですけどね、どうもそそっかしいところがあったようで。 まあでも、四季森さんの言葉は伝えておきます。 今は自宅療養中ですし、いつでもいますから」 「お願いします。 高空さんもわざわざ休日にお越しくださって、重ねてお礼申し上げます。 今日は土曜日ですがお仕事の方はお休みでしたか?」  悪意のない純真な舞花の問いに、秀斗は声を詰まらせた。 出来のいい弟を紹介した手前、自分はアルバイトで日々を繋いでいるとは言い難い。 かといって大きな見栄を張る度胸もこのときは無く、 「……小説家のたまごみたいなもので、あんまり休みは関係ないんです」  嘘ではないが本当でもないグレーゾーンの返答に落ち着いた。 引き目を感じて舞花と顔を合わせられなかったが、秀斗の耳朶(じだ)を打ったのは彼女の弾むような銀鈴(ぎんれい)の声だった。 「小説家のたまご……素敵ですね。 私もたまに小説を読むんですよ。 イラストが無いのにきらきらしたりぞくぞくしたり、改めて言葉だけの世界は面白いなと思います」
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