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「そう、そうなんです」秀斗の声に微熱がこもった。 「小説の持つ力って不思議ですよね。 四季森さんが仰ったように、イラストが無くともいつの間にか頭ではちゃんと風景が描かれている。 十人十色の感じ方があるのも魅力的だと思ってます」
「そこが写真と小説、同じ創作でも決定的に違う部分ですよね。 高空さんはどういったジャンルを書かれるのですか?」
「ジャンルでいうと純文学にあたるのかもしれません。 当時の苦悩や自分の根元に眠る本音をそのままぶつけた……みたいな」
自分が今日まで何を書いてきたのか。 世間から認められずに腐敗臭を放ち続けるそれらは、もはや小説という形を保っていない。 作者本人でありながら作品に秘めた想いをストレートに語れないのは、はっきりいって羞顔極まった。
秀斗は熱くなる頬を苦笑で誤魔化し、「そうだ」と勢いのままに続けた。
「もしよろしければ、読んでみてくれませんか。 公募に落選した中編小説になるのですが」
「いいんですか! わあ、読みます、読ませてください!」
予想外に食らいついた舞花の反応に秀斗はたじろぎつつ、「わかりました」と先刻とはベクトルの違う面映さを感じながら顎を引いた。
「また明日にでも、印刷して持って来ます」
「ぜひっ。 楽しみにしていますね」
秀斗は舞花の期待に背中を押され、『シキモリ写真館』を後にした。 帰りしなの足取りは羽のように軽く、うっかりすると宙に飛んでしまいそうだった。
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