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橙色で染まる館内に、紙の捲れる音だけが際立っていた。 耳を欹てると空気中に固まった静寂の振動が鼓膜を震わせるようで、閑静なのにうるさかった。
さらり、とまた紙が捲られる。
光の輪を描く黒髪の頭頂部を晒しながら、舞花は秀斗の持ち寄った中編小説を読み耽っていた。 カウンター側で長脚の椅子に腰を下ろしていた秀斗は、小説を介して真っ新な心を直視されている気分になり、どうも落ち着かなかった。
さらり、と最後の一枚が捲られる。
頁数にして五十未満。 舞花の読書速度は平均的だったが、読了までにはおよそ一時間強を要した。
舞花はふうっと吐息を漏らし、長い睫毛の瞼を閉じたかと思いきやしばらく動かなくなった。 まるで眠りに落ちたかのような沈静に、秀斗が声をかけようとしたそのとき。
「すごくストレートな言葉たちばかりで……こう、胸にぐさっと来ました。 それでいて、ぐらぐらっと心が激しく揺さぶられて、その、ジェットコースターに乗ってる気分になります。 すみません、私、語彙力がないんです」
瞼を開いた舞花はくしゃっと笑って口許を手で覆った。
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