二章

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 写真撮影の技術に()けた実直な姿勢からは一転、直感的な言葉選びに手こずる舞花が可愛らしく映った。 「ありのままの感想を頂けただけで十分幸せです。 読んでくださりありがとうございました」 「とても満足できるお話でしたよ。 やはり小説を書く人は凄いんだなと実感しました」 「恐縮です。 これからも研鑽(けんさん)を積んで、いつかはプロとしてデビューしてみせます」 「とても楽しみにしています」秀斗の小説原稿に舞花は小さな両手を重ね置き、「そのときは、私の物語も書いてくださいませんか」  鼓舞か、本気か。 舞花の声音だけで判断するのは難しかった。 そもそも感想自体が忖度(そんたく)──と考えるのはさすがに捻くれていると思うが──なのかもしれない。  高空秀斗という人間は、兄として親の期待に応えるため、弟の見本となるため、精一杯努力して本当の自分を隠して生きてきた。 学生時代の友人は上澄み液な存在がほとんどで、本音を吐露した相手は(家族を含めても)一人としていないのだ。  するとどうなるか。  自分が相手に対して殻を纏っているのだから、相手も自分に対して殻を纏っているのだろうと考えるようになった。 結果、他人の気持ちを推し量ることが下手くそになってしまったのである。  舞花が秀斗に望んだ願いは、どこまで信用すれば良いのだろう。  秀斗は悩んだ挙句、「頑張ります」と聞こえによっては無責任に告げていた。
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