二章

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 『シキモリ写真館』での一幕を終えて帰宅すると、玄関から伸びる廊下に立っている飛翔と遭遇した。 どこかへ出掛けたのか、全身をビジネススーツに包んでいる。 「お帰り、兄ちゃん」 「ただいま……どこか出掛けたのか」 「出掛けたも何も、明日から職場復帰だよ。 今日は菓子折りを持って行ったんだ」 「足は支障ないのか」 「今、松葉杖で体を支えていないのが証拠。 激しく動き回るのは抑制しなきゃだけど、歩くのに支障はないから」 「無理、すんなよ」 「わかってるって。 今度こそ転ばないようにするから。 一人暮らしのアパートでも気を付けるよ」  そうか……また一人暮らしを再開させるのか。  少し痩せたように見える飛翔は、足を庇いながらリビングへ向かった。 弟の出立に一抹の寂しさが胸を過ったが、本来であれば弟のような生き様が “普通” なのだ。 「それとさ、パズルは残しておくから。 兄ちゃんの部屋にでも飾っておいてよ」 「あれは飛翔のだろ。 せっかく撮ってもらったんだ。 持って行けよ」 「兄ちゃん、オレがいないと寂しいでしょ? だから、傍らに置いといてよ」 「冗談はよせ。 何のために作ったと思ってるんだ」 「冗談じゃないって。 頼むよ」  珍しく食い下がる飛翔に秀斗は嘆息し、しぶしぶ承諾した。 弟は嬉しそうに白い歯を覗かせたが秀斗としては複雑な心境を抱かざるを得なかった。
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