三章

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 舞花が一眼レフを構える理由も、なんとなく理解できるような気がした。 小説家志望として感覚を形容できないのは失笑買いに等しいが、胸に迫る “何か” があるのは間違いない。  スマホのカメラで風景写真を収めた秀斗は、自然の香りを肺に溜め込んで吐き出した。  小説を書くために、己の内側ではなく外側へと目を向けたのは正解だった。 果てしなく続く世界には、両手で抱えても有り余るほどの選択があったのだ。  青く霞む山々、色とりどりに咲き誇る花びら、蒼穹に白い軌跡を描く飛行機雲。  小説は何も、自分の本音をぶつけるために書かなくてもいい。 普段の生活に宿るささやかな幸福だったり、人知れず枯れていく哀しさだったり、そういった “誰かの想いと共鳴する” 題材を言葉にするのも、小説という媒体の成せる業だ。  一頻りネタに成り得そうな風景をスマホで収めていると、メッセージアプリに通知があった。 送信者は飛翔だった。 『兄ちゃん、元気にやってる?』
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