三章

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 青天の霹靂とはまさにこのことをいうのだろう。  散り散りになった思考を拾い集めて納得すると、秀斗の心臓が太い針で刺されたように痛んだ。 思わず顔を顰めそうになったが奥歯を噛み締めて堪えた。 できる弟の兄として、パートナーを失望させるわけにはいかなかった。 「いや、はや。 こんなだらしない格好で面目ない。 どうも、初めまして。 飛翔の兄の、秀斗といいます」 「秀斗さん、よろしくお願いします。 その……飛翔さんとお付き合いさせて頂いてます、秦野(はたの)ナツメと申します」 「さ、さ、ナツメちゃん。 ご飯はできてるから、一緒に食べましょ」  満面の笑みを浮かべる母親と父親に誘われて、飛翔とナツメはダイニングのテーブルに着いた。 飛翔の隣にあった秀斗の定位置に何も知らないナツメが腰を下ろし、秀斗はちょうどコの字の縦棒にあたる部分に椅子を持ってきて座った。  両親と対面する飛翔とナツメの構造はすんなり高空家に馴染み、夕餉(ゆうげ)にやり取りされる会話もまるで親子のそれだった。  営業先で出逢ったことから始まる二人の馴れ初めや、ナツメの手料理を誉めそやす飛翔や、まだ早いと恥じらいながらも語る未来の家庭や、だけど子供の名前は考えているという初々しさや──。  秀斗は一切口を挟むことなく、その代わり、テーブルに並んだ煮物や揚げ物を胃袋へ収めていた。 建前は、提供された料理が冷めてしまうのはもったいないから、だ。 無心で箸を動かしていると食欲というのは無尽蔵で、飛翔らをもてなすための “装飾” として用意されていた料理は、みるみる減っていった。 このときばかりは、秀斗は人間に命を虐げられた動物たちの救世主だった。
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