三章

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「ちなみに、お兄さんはどんな職業に就かれているのですか?」  ナツメのその一言でずっと地面に眠っていた地雷が弾けた。 方々に四散した土は、興味と好奇心を綯交(ないま)ぜにした無垢な肌を晒すナツメに降り注ぐが、汚れたのは最も遠くで観測していた高空家だった。 「ナツメちゃん、秀斗のことは、」 「兄ちゃんは、小説家志望なんだよ。 自慢の兄貴なんだ」  母親の気遣いを飛翔が遮って、秀介が「だよな?」と秀斗に確認する。 「……そ、そう。 そうなんです。 俺、小説家目指しているんです」 「へえ、それは素敵ですね」  丸い瞳を弧にしたナツメの返答は舞花と同じだったが、ナツメの場合は、飛翔の機嫌を損ねないように配慮した称揚(しょうよう)だった。 秀斗は「ありがとうございます」と硬い口角を上げて、 「どうぞ、俺のことなんて気にせず続けてください。 そこから小説の着想が浮かぶかもしれませんし」 「兄ちゃん……」 「飛翔、いつか二人の物語を紡いでやるからな。 楽しみにしていてくれ」 「ああ……うん。 楽しみにしてる」 「飛翔くん、他に何か話せることがあったかな──」  機を見るに敏なナツメの気遣いにより、家族の団欒はなんとか回復していった。 地雷の爆心地の真上に立っていた秀斗は撒き散らした土を埋めることもできず、胃袋は次第に重たくなっていった。  二時間後に飛翔とナツメが帰ったとき、秀斗はディスプレイを睨んでいた。
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