三章

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 ※  その欄に自分の名前を見つけたとき、秀斗は我が目を疑った。 まるで万物の時間が止まったように、ぴんと張り詰めた静寂が胡座をかいた秀斗を包んだ。 「……本当かよ」  ページのリロードを何度も繰り返して “それ” が管理者の不手際でないことがわかるや、秀斗の胸に炭酸のような喜びが湧き起こった。 「一次選考……通過」  ウェブ上の文字を読めば、茫洋(ぼうよう)とした実感が形を成した。  一次選考通過。 今日まで歯牙(しが)にも掛けられなかった作品が、初めて、誰かの心に留まったという証左(しょうさ)なのだ。 たとえ一次だろうと、その事実に偽りはない。 秀斗は口角が上がるのを堪えられなかった。 「そうだ、四季森さんにも伝えないと」  喜びも束の間。 バネ式玩具のように飛び起きた秀斗はすぐさま寝巻きを脱いで、クローゼットから適当な私服を引っ張り出した。 カーテンを開けた窓外には秀斗よりも早く着替え終えた初秋の景色が待っていて、じれったそうに紅葉を揺らしていた。  もし、デビューできたなら……そのときは。
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