三章

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 『シキモリ写真館』に到着すると、秀斗は息を整えてから弁柄色の扉を開けた。 カランカランと響くドアベルは秀斗の喜びを、板張り床を踏み締める軽音は浮き立つ心を体現していた。 「いらっしゃいませ。 ──ぁ」  カウンターにいた舞花はお辞儀した頭を戻すと、アーモンド形の瞳を丸くさせた。 スマホ写真を現像するために何度も足を運んでいるから驚かれるのは不思議だったが、その理由はすぐに判明した。 「高空さん、何か良いことがあった顔をされています」 「え、本当ですか」  ペタペタと顔に手を当ててみるが、鏡が無いのでは自分がどんな表情を晒しているのかわからなかった。 秀斗の行為が可笑しかったのか、舞花は「本当ですよ」といって破顔した。 「鏡、お貸ししましょうか」 「い、いえっ、大丈夫です。 それよりも、四季森さんに件の良いことをお伝えしたくて」 「あ、でしたら」  息急き切って先を続けようとする秀斗に手のひらをかざし、舞花は待ったをかけた。  どうしたんだろう? 早く伝えたいのに……。  秀斗は喉元まで出かかった報告をなんとか呑み込んだ。 一方で舞花は、商店街の通りに面した窓へ歩み寄ると、外をしばし眺めてから一つ大きく頷いた。 「高空さん、少し外へ出掛けましょう」
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