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「外?」
「はい。 今なら私の腕が光ります」
いうが早いか舞花は身に着けていた紺色のエプロンを脱ぎ、壁に備え付けられた棚から一眼レフを手にして首から下げた。 カメラ道具で膨らんだウェストバッグを腰に巻き付けると、僅かに表情を引き締めたようだった。
「近くの紅葉が美しい公園まで、お付き合いください」
お願いされては断れず(元より断る気はないが)、秀斗は舞花に促されるまま二人揃って『シキモリ写真館』を後にした。
二人きりで外を歩くのはほとんど初めてで会話が生まれるか不安だったが、舞花は秀斗の書き上げた小説についてあれこれ訊ねてくれたので杞憂に終わった。
視野を自分の内側から外へ向けたこと。 自然の広さに圧倒されつつも、そこここに点在する何気ない幸せや寂しさを知れたこと。 久し振りに小説を書く楽しさを味わえたこと。 そのどれもが舞花のお陰であることを、秀斗は拙いながらも伝えた。
舞花は「私なんか」と謙遜していたが、艶やかな黒瞳の嵌まる目許は綻んでいた。
「高空さんは今、嬉しいですか?」
「もちろんです! ずっと苦しかったぶん嬉しさも大きくて。 それに取らぬ狸の皮算用だと理解はしていますが、希望すら感じています」
「嬉しさと、希望。 ぴったりですね。 あっ、もうそろそろ着きますよ」
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