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舞花は一眼レフを大事そうに抱えると、紅や黄色で染まるアスファルトを早歩きで進んだ。 よほど公園に思い入れがあるのだろう。 彼女の肩口で切り揃えられた黒髪は風と戯れるように揺れて、小さな背中は秋の世界に魅入られていた。
「さあ、高空さん。 あちらを背景にして立ってくれますか」
到着した公園で早速、舞花は秀斗に指示を出した。 秀斗は風光明媚な紅葉をまずは楽しみたかったが、彼女の屈託のない笑みを見せられては従うしかなかった。
「もっと笑ってくださあい」「いい感じです」「その笑顔キープしてくださいね」「撮りますよっ」
写真家の鎧を纏った舞花から飛ばされる注文に必死で応えながら、秀斗の一人撮影会は続いた。 ある程度撮り終える頃には、頬は慣れない表情筋を酷使したことで痙攣していた。
「ありがとうございました。 とても素敵な写真が撮れましたよ」
「こ、こちらこそ。 上手く要望に応えられたか不安ですけど」
「ばっちりです。 これから現像するまで楽しみにしていてください」
白い頬に紅葉を散らす舞花は一眼レフを愛おしく撫でていた。 さっきまでは無骨なカメラを構える彼女が主役だったのに、気迫溢れる写真家の姿はすっかり形を潜めて脇役に徹していた。
秀斗は彼女を喜ばせる一因になれたことを嬉しく思いつつ、撮影中には訊けなかったことを口にした。
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