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「ここに来る前に、写真館で「今なら腕が光る」と仰いましたよね? あれはいったいどういう意味だったんですか」
「ああ、そのことですか」
舞花はカメラを愛でる指をぴたりと止め、長い睫毛で縁取られた双眸を眩しくもないのに細めた。 それから頭上に繁茂する紅と黄色の群れを仰ぐと、ちょうど細い枝先から離れた橙色の一枚を摘んで続けた。
「桜の花びらや紅葉が舞うときに人が嬉しく思ったり美しく思ったりするのは、そこに希望を見出しているからだと考えています。 お花見や紅葉狩といったイベントがあることからして、私の自論は間違ってはいないでしょう」
秀斗の脳裏に、花見をして表情を綻ばせる家族連れやカップルの姿が描かれた。 舞花も同じ風景を公園内に投影させているのか、玲瓏な声には弾みがあった。
「だから私は、誰かの笑顔と一緒に舞い落ちる桜や紅葉を撮りたいのです。 いわば嬉しさと希望の相乗効果といいましょうか。 高空さんは、写真館に足を運んだとき大変嬉しそうな顔をされていました。 今日は心地よい風が吹いていましたし、「これは!」と思ったんですよ」
「なるほど……そんな素敵な想いが込められていたとは。 いの一番に四季森さんにお伝えして正解でした」
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