モノローグ

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 ガラス玉のような瞳を(うつろ)にして、四季森舞花(しきもりまいか)はアルコール臭で満たされた白い天井を眺めていた。  ぽた、ぽた、と身体から生えたチューブの先にぶら下がる点滴が、第二の鼓動として働いている。  何日、何ヶ月、これから何年。 私はこの無機質な白い空間に閉じ込められていればいいのだろう。 このあいだ迎えた二十歳の誕生日も、到底喜べるものではなかった。  いつ思い返しても、私の人生は壁に囲まれてばかりだ。 だから、嫌になるほどの白い壁が私を見下ろしているのは、必然の(ことわり)なのであって──。  ──そのとき、舞花のガラス玉が一つの色を捉えた。  桜だ。 風に舞った桜の花びらだ。  しわくちゃになった布団からのそりと上体を起こし、目元を覆う髪を白い指で払う。 クリーム色のカーテンが端で束ねられた窓からは四月の温かい光が差し込んで、リノリウムの床に陽だまりを作っていた。  舞花はベッドからゆっくりと降り、(かんば)しくない体調を引っ張りながら窓辺に近寄った。
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