11人が本棚に入れています
本棚に追加
ガラス玉のような瞳を虚にして、四季森舞花はアルコール臭で満たされた白い天井を眺めていた。
ぽた、ぽた、と身体から生えたチューブの先にぶら下がる点滴が、第二の鼓動として働いている。
何日、何ヶ月、これから何年。 私はこの無機質な白い空間に閉じ込められていればいいのだろう。 このあいだ迎えた二十歳の誕生日も、到底喜べるものではなかった。
いつ思い返しても、私の人生は壁に囲まれてばかりだ。 だから、嫌になるほどの白い壁が私を見下ろしているのは、必然の理なのであって──。
──そのとき、舞花のガラス玉が一つの色を捉えた。
桜だ。 風に舞った桜の花びらだ。
しわくちゃになった布団からのそりと上体を起こし、目元を覆う髪を白い指で払う。 クリーム色のカーテンが端で束ねられた窓からは四月の温かい光が差し込んで、リノリウムの床に陽だまりを作っていた。
舞花はベッドからゆっくりと降り、芳しくない体調を引っ張りながら窓辺に近寄った。
最初のコメントを投稿しよう!