11人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ああ、ウザいな」
掠れた声が、毒を吐く。
総合病院の三階は角部屋に用意された舞花の個室。 大通りに面した窓を見下ろすと、眼前には鮮やかな桃色を湛えた桜が、左右に長く並んでいた。
消失点まで続いているような桜並木を、嬉しそうな顔をした家族連れや恋人たちが歩いて行く。 子供のはしゃぐ声が窓越しに聞こえてきそうだった。
薄い胸の裏側を、苛立ちと嫉妬と羨望で攪拌された液体で満たされる。
舞花はカーテンを勢いよく閉めて、視線をべりべりと引き剥がした。 気分を悪くさせたままベッドの上に仰向けになり、瞼を落とす。
眠気は来ない。 それでも、死ぬためには今日を消費して明日を迎えなければならない。
こんな生活、早く終わらせたかった。
最初のコメントを投稿しよう!