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「これからの出勤…というと?」
私が聞き返すと、店長は
「マリナちゃん、明日からは出勤減らしてくれていいよ。」
と言った。
店長はニコニコしていたが、目の奥は笑っていなかった。
「正直に言うとね、出勤を減らすというか、このお店を辞めたほうが多分マリナちゃんのためになると思うんだ。」
「えっ…?」
突然のクビ宣告に、私の頭は真っ白になった。
「マリナちゃん、週6でオープンからラストまでほぼ入ってくれてるでしょう。すごくありがたいんだけど、ここのところずっとお茶引いてるよね。」
お茶を引く、というのはこの業界の言葉で、お客さんが付かず暇にしている状態のことだ。
「今日も10時間くらい勤務してくれてたけど、お客さんは田中さん一人だけだったよね。」
「そう…ですね…。」
「長時間勤務してもらってるのに7000円しか持って帰ってもらえないんじゃマリナちゃんも不満だろうし、こちらとしても心苦しくてさ。」
「それは…そうですけど…。」
実際、10時間も割いて7000円しかもらえないのでは割に合わない。
都心のファストフード店でアルバイトをした方が多く稼げるだろう。
「正直言うとね、マリナちゃん、お顔も可愛いし愛想も良いんだけど、その…年齢がね、うちの店と合わないんだよねえ。ちょっとそれで、今日の田中さんとかもそうなんだけど、ついたお客さんから結構クレームが来てて。」
「えっ。」
―今日の田中も?
―最初はブツブツ言ってたけど、結局3回も出したじゃんアイツ。
「ウチの店は10代から20代の子が多くてお客さんも幼な好みの人が多いからさ、マリナちゃんみたいなお姉さんは指名を取るのが難しいと思うんだ」
―お姉さん、って。
―結局、ババアはいらないって言いたいんだろ。
「だからさ、マリナちゃんには人妻専門のお店とか行ったほうが稼げるよ!新大久保に系列店の人妻風俗があるの知ってるよね?向こうの店長には話通しとくからさ、明日からそっちに出勤してくれるかな。」
「人妻、専門店…。」
「そっち行ったらさ、マリナちゃんも若い方になるから人気出るかもしれないよ?ねっ。じゃあ、今までウチで頑張ってくれてありがとう!元気でね。」
畳み掛けるように話す店長の顔は相変わらずニコニコしていたが、やっぱり目の奥は笑っておらず、全身から「早く出ていけ」オーラが出ていた。
この人はもう私が何を言っても意見を曲げないだろうと思い、私は
「今までありがとうございました。」
と言って、店を後にしたのだった。
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