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「私の母は父の前で毒を飲み自害、父は隠居先で殺されたので首里城にいる私は天涯孤独。味方など存在せず、どうしたものかと悩んでいる時、王様との縁談が決まりました。ですが、王妃となっても私に味方はおりません。王様の母、国母様は私を邪魔者として扱い、真仁堯様の母である側室は王妃である私より権力を持っていました」
いないものとして扱われ、王妃であるにもかかわらず側室の方が権力を持つ。
いつまで苦しまねばならないのか。私はなぜ生きているのか。ただ毎日いつ死のうかと、そう考えて生きていました。
「王妃となって十数年、一人だった私は惟衡を授かりました。そしてすぐに朝栄も授かり、一人ではなくなりました。ですが、お義母様と側室は私の子が玉座を継ぐなど許すことが出来なかったのです。一度目はお義母様、二度目は側室の策略により惟衡は二度廃嫡され、ついにはこの浦添城に隠居することとなりました。惟衡と朝栄の苦労は全て私の子として生まれたから。二人は何もしていないと言うのに」
誰かを親として産まれてきたから。それが罪になるのでしょうか? その罪により一生苦しまねばならないのでしょうか?
この子たちに私と同じ苦しみを、悔いばかりの人生歩んでほしくない。それなのに私はあの時、王の頬を叩いた時、死のうとしていた。この子達を守らねばならないのに、一人楽になることだけを考えていた。
「……あなたの父上のことを恨んだこともあります。殺してやろうと思ったことだって何度もあるのです。それでも、私を惟衡と朝栄にで合わせてくれたのは、母にしてくれたのは、紛れもなく王様なのです」
「……母上は父上のことを今も恨んでおりますか?」
静かに話を聞いていた惟衡は、不安な気持ちを隠せていない。
母と父が恨み合うだなんて、お互いに何も思っていないなんて、そんな二人の間に生まれた子がどんなに不安で不幸か。私が一番知っております。
「恨んだこともありますが……やはり、私は王様のことをお慕いしているのです。私たち親子を浦添城に隠居させたのも、守るためだと知っております」
「では、なぜ母上は父上を叩いたのですか?」
「やはり、知っていたのですね」
「首里城にいる者で知らない者はいない、かと」
「違う方法で、首里城で、王様の近くにいるままで守ってほしかったのです。それなのに、王様は遠くで守ることにしたのです。私はこんなにも王様を慕ってるのに離れろと言うのですから、なんだか腹が立ちましてね。気付いたら手が出ていました」
「……ふふっ、なんですかそれは」
「えぇ、母も惟衡と同じように思っております」
私は間違いなく敗者です。
不幸な人生を歩み続け、結局は父と同じ隠居の身となりました。
それでも、お慕いする王様と愛すべき惟衡と朝栄。そして可愛らしい真仁堯様と会えたただけでも、良かったと思えてしまうのです。
これからはゆっくりと過ごしましょう。息子たちにも自由に過ごしてもらうのです。
敗者として隠居している私の唯一の特権なのですから、思う存分特権に甘え、最大限に使ってやります。
「惟衡」
「はい?」
「……母はあなたを王にしたいと思ったことはありません。今もそうです。惟衡が思うように、自由に好きなように、願ったとおりに生きていてくれれば、母はそれだけで十分幸せです」
困ったように笑う惟衡を見れるのなら、母は何度でも誰にでも負けます。笑顔のまま喜んで敗北者と罵られましょう。
「母は惟衡と朝栄に出会うために今まで生きてきたのですよ」
「……今までの態度大変申し訳ございません。明日からは母上に毎日ご挨拶しますし、真仁堯が来た時も共にご挨拶に伺います」
こんなにも立派に育っている惟衡と過ごせるだけで十分なのです。
そう伝えると、惟衡は先程の真仁堯様と同じように、王様に似た意思の強い目を細めて笑う。
あぁ、本当に、立派になりましたね。
「えぇ、わかりました。毎日惟衡に会えること、母は楽しみにしていますよ」
不幸だと嘆いて何度も死を望んだ私が、これほど笑顔に包まれ幸福と感じることができるなんて……諦めずに生きてみるものですね。
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