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龍の血を継ぐ敗北者
「王様を呼びなさい!」
酷く醜い声が出た。
自分がしてることがどんな結末になるかはわかっていても、止める気はない。
「王妃様」
周りの女官たちが慌てふためき、次々に私の仮初の名を呼ぶ。その名を呼ばれるのももう最後。わかってはいても何も感じない。
私の名を呼ぶ者はもう誰もいない。父と母はとっくの昔に私を置いて死んだ。
「王妃、静まれ」
女官たちに押さえられてもなお暴れる私の前に、呼びつけた憎き人が現れる。
「ご満足でしょうね」
押さえられたまま項垂れて話す。
ぽつり、ぽつりと出てくる言葉はどれもこれもが目の前の人への当てつけ。
「お義母様の思惑通り、そして側室も自分の息子を王にできる。これで穢れた血の私と息子たちを完璧に排除できますことでしょう!」
私がなんと言っても、どんなに声を荒らげても、この人は何も言うことはない。何もしてはくれない。知っていますとも、今更ではありません。
あのお義母様の血を持つ方です。あの側室を向かい入れた方です。人ではなく龍として育った方なのです。期待をすることもございません。
「私は言われたとおり、王子たちを連れて浦添城に参ります。あなた様の命に従う従順な私の切なる願いをお聞き入れください」
女官たちの手を振りほどき、床に頭をつける。
最初は嫌で仕方なかった。なぜこのような子供に頭を下げねばならぬ。私の父を陥れた男だ。挙げ句の果て殺したのだ。このような男になぜ嫁がねばならぬ。
なぜ、なぜ、なぜ。
「聞かせてみろ」
落ちてくる声に感謝を伝え、それから私の願いを口に出す。
「王妃のまま追放するのではなく、王妃の座を剥奪し、離縁してから浦添の地に追放してくださいませ」
女の、ましてや敗者たる父の血を引く私からこの国の主。王と呼ばれる方に離縁を申し出る。それは死と同じ。殺してくれと言っているようなもの。
そうなってもいい、むしろそうなることこそ私の願い。もう生きているのは、もうこれ以上辛い思いをするのは嫌なのだ。
「わかった。王妃の座を剥奪し王子たちと共に浦添へ行け。もう二度と顔を合わせることもなかろう」
ありがとうございます、などと礼を言ってやるものか。
王様のせいで私の人生は狂った。王様が義母を止めていれば、あのような側室を迎えなければ、王子を二度も廃嫡しなければ、私を王妃にしなければ。
王様は相変わらず高みの見物。私を冷たい目で見下ろし続ける。
我慢なるものか。もう私は王妃ではない。
ぱちん。
私の手から出た音が響き渡る。周りの女官たちは凍りつく。
「何をする!?」
女官長の一言で女官たちは私を取り押さえる。
私はもう若くない。それに所詮はただの女。大勢に押さえられては為す術がない。
「よい、皆離れろ」
王様は冷たい言葉で私から女官たちを引き離す。王様は私の手を取ると、少しだけ寂しい目をする。
その目はただの従兄弟として出会った時、まだこの者が王と呼ばれる前と同じ目。
「頬を叩いて満足するならばそれで良い。あとは何がしたい?」
「……結構にございます。寛大なる処置に感謝致します」
王様が下がるまで床に頭をつけ続ける。
もう、会うことはない。元々顔を合わせる機会も少なかったのだ。何を思い返すこともない。
皆が王様に頭を垂れ、称える。この首里城を皆が素晴らしき王の住まう神聖な場所と口を揃える。
「……私にとって、この城は牢にございます。今も昔も変わりません」
その言葉を吐き捨て、息子たちと首里城から離れる。
従兄弟であった、敵であった、そして夫であった男。
私の人生にはいつだって王と呼ばれる男、龍と崇められる男たちが深く絡みついております。
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