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「惟衡を呼んでと言いたいところですが、いるのでしょう? こちらに来て座りなさい」
「……はい、母上」
真仁堯様と私の様子をずっと覗き見ていた惟衡を呼ぶと、顔がぶすくれている。
「わかっていたのですか? それならば追い返せば良いではないですか」
「母が惟衡を追い返す必要がありましたか?」
惟衡も朝栄も童名と呼ばれる名から、大和名と呼ばれる名を授かりました。王族の証である尚の姓も受け継ぎ、私からしたらまだ子供だと言うのに、二人は突然大人として扱われるようになりました。
「私が真仁堯様に何をするのか心配だったのでしょう」
「……はい」
惟衡は私に対しての態度をどすればいいのか決めかねているのでしょう。浦添城に来てからというもの、ほとんど私と顔を合わせません。
意識して私と会わないようにしているのでしょう。
「真仁堯様に言ったとおり、ここでは世子ではなく真仁堯樽金という名の惟衡と朝栄の弟として接します。異論はありますか?」
「……ありません。母上のお心遣い感謝します」
私が惟衡と同じ歳の時、私は従兄弟である男、王と呼ばれる子に嫁ぐことが決まりました。
あの時は家族と呼べる者はおらず、首里城で一人寂しく過ごしていて、父と共に首里城から離れていれば、などと思っている時に縁談の話が出て、私は余計に塞ぎ込むようになりました。
「母と父上がどのような関係かは知っておりますね?」
「……どういうことでしょうか?」
「私の父、惟衡の祖父から王座を奪って即位したのがあなたの父上。尚真王と呼ばれる男であることは知っていますね」
私の父は在位六ヶ月でしたが王となり玉座に座った者。尚宣威と呼ばれた王。
「……知っております」
「では、今日はその話をしましょう」
「……え、何を仰って「惟衡、あなたはもう大人として扱われています。母も今日からはあなたを大人として扱いましょう。大人ならば母と父の関係を、何もしていない惟衡と朝栄がなぜ首里城を追われねばならなかったのか。それを知らねばなりません」
私の人生。尚宣威を父として、尚真王の王妃となった。
王女と、王妃と呼ばれていた、私の不幸な人生を手短に伝えます。
なぜ自分が二度も廃嫡されたのか、惟衡も理解できる歳でしょう。
「私の感情などは含めず、起こったことを順番に手短に話します。惟衡がどう思おうと勝手です。今から話す出来事は全て起こってしまった過去の出来事ということは忘れないように」
いずれは、この話を朝栄にもすることになるでしょう。
「私は空添という名の男の娘として産まれました。空添は当時の王に仕えていた臣下を兄に持ち、その後兄が王となると空添は王の弟として力を持ちます。空添の兄の子が、あなたの父上です」
私より二つ下の従兄弟は引っ込み思案で、私が首里城に住み始めた時ですら、恥ずかしいからと目を合わせようともしなかった。
こんな者に王が務まるはずがない。幼い頃の私の予感は大きく外れる。
「空添の兄が亡くなり、まだ幼い子に王は務まらないと父上が尚宣威王と名乗り即位しました。ですが、即位式の際に聞いた神の声は父上ではなく、まだ幼い子こそが真の王にふさわしいと言う内容でした。父上はその幼子に玉座を譲り、隠居の後に殺されます。神に真の王と言われた幼子は尚真王と名乗り即位しました。惟衡の父上は十二で王となり、今もこの国の王として君臨しております」
在位六ヶ月の父とは比べるのも忍びないほど、長い間この国を治めている。
数々の偉業を成し遂げ、数々の島々を琉球の支配下として。
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