3人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
その日、私は絶望という深く生暖かい闇の中を歩いていた。
生ぬるい風と、あざ笑うかのように私を濡らしていく雨はどこか心地よかった。雨で濡れたコンクリートの床は私の足の裏を慰めるように、時々破片が何かを楽しむように触れてきた。
ゆっくりと歩く私の脳内に走馬灯のようなものが走った。
元々、舞台女優の仕事をしていた。ただ、売れることはなかった。部隊の出演依頼などほとんど来ず、来たとしても演出家に叱られ、どんなに努力しても、若手に実力も見た目も劣ってしまう。ネットを見れば酷評される。舞台の評論家とかいう訳のわからないやつも私さえいなければいい舞台だったとか、昔のほうが良かったとか平気でほざく。
更に、結婚間近だった男には浮気され、挙句の果てに私が悪いみたいな言い方をされ一方的に別れを告げられた。お芝居のヒロインより酷い有様だ。
本当の芝居ならここから一発逆転でイケメンとくっついて幸せになるのだろうがそんな展開は私にはない。そんな幸せな色の結末なんて訪れやしない。嘘偽りに固められた闇色のバットエンドだ。
そのことに気が付いたとき、もうこんな世界という舞台で演技をしたくないと思い始めていた。だが、誰かがこの舞台に幕を降ろさなければ永遠に続いてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!