雨という二人舞台に雪の雫を

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 だったら、自分の幕だけでもおろしてしまおうと思った。嗚呼そうだ、そのために自分は今ここにいるんだった。  ふと、気が付くと足元に無機質なコンクリートとギラギラした下界の裂け目のようなものが見えた。  どうせ、幕を下ろすなら最後に目に焼き付けておこうと思い下を見まわした。  雨に濡れいつもより輝きを増したネオン。地上には、水たまりができていて色んな光を反射し、景色を映し出していた。時折反射した景色が揺れるのは欲にまみれた者たちがそれを踏んでいくせいだろう。  金に性欲に名声、富、名誉。いつからだろう、きれいなものがあるのと同じくらい汚いものもあると気付き始めたのは。 いつからだろう、きれいなものを身にまとっていたはずなのに汚いものを被り始めたのは。  考えても答えは一向に出なかった。  ただひたすら息苦しくなるだけだった。  でも、それももうすぐ終わる。もう、息苦しくなることも、汚いものにまみれることもなくなるのだ。今まで生きていた中でこんな嬉しいことはなかった。  眺めていたものに背を向け、両手を広げて後ろに倒れた。一瞬ふわっと浮遊感を感じたあとすごいスピードで落ちていくのがわかった。落ちていく中で恐怖も後悔も何も感じなかった。  ただ、一つだけ叶うなら人生で一番愛した男を――たかった。
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