雨という二人舞台に雪の雫を

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 ふと、気が付くと路地裏にいた。正直訳が分からなかった。あの時確実に自分の幕を下ろしたし、もし仮に下ろせていなかったとしてもあの高さから飛び降りて無傷なわけがないと。クッションになるようなものがあったとしてもこうして立っていられるわけがなかった。  顔に何か当たったような気がして上を見上げると雨が降っていた。本来なら寒いとか、濡れて気持ち悪いとかあるはずなのにそういう感覚が一切なかった。 「あははは……」  思わず乾いた笑いがでた。そして、笑いながら泣いた。 もう訳が分からなかった。自分が悲しくて泣いているのか滑稽で面白くて笑っているのか。あるいはその両方か。   知りたいような知りたくないような感情がごちゃごちゃ混ぜになっていると、背後に人の気配がしてそちらに顔を向けて驚いた。  私に背後から傘を差してくれていたのは一番愛していたのに結婚間際に私を振った男だった。どうして今更、と驚き思わず何故? と問いかけてしまった。  男は戸惑ったように変身に詰まっていた。そういうところは本当に憎らしいほど変わらなかった。しかも、その様子だと私のことは完全に忘れているようだ。  一応、確認のために覚えているのか否か聞いてみると、やはり覚えていないようだった。まあ、それは想定内なのだが。都合が悪く、捨てた女のことを覚えているような男でもないし、と開き直ると、男は行きつけのバーが近くにあるから行こう、と言ってきたので付いていくことにした。
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