雨という二人舞台に雪の雫を

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 近くの雑居ビルの地下の階段を下りていくと懐かしい気持ちになってきた。行きつけのバーと言っていたから予想はしていたがやはりこのバーかと笑ってしまいそうになった。  このバーは付き合っていた時によく二人で、いや、男は他の女と一緒に言っていたのかもしれないが、行っていたバーだった。このバーのマスターとも面識がありよくくだらない話をしたものだった。  店内に入るとやはり、あの白髪のマスターがいた。別れてからこのバーに来ていないのでそれなりの時間が経っているはずだが、あまり見た目に変化はなく元気そうだった。  マスターは私に気が付き、驚いたような顔をしたが男に声を掛けられタオルを投げ渡していた。男は受け取ったタオルで私をふいた。その優しさのせいか、バーやマスターの変わらぬ雰囲気に懐かしさを感じたのか、無意識にすみませんとつぶやき涙がこぼれ、止められなくなった。マスターはそんな私を見て何かを察し、店を閉めた。
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