不倫だけは、絶対に

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「なんだ、久美ちゃんも買ってきたのか」 スーツからラフな格好に着替えた文也が、昼飲みに参加する。 「私たち、趣味が合いますねぇー!」なんて言いながら、文也と乾杯をしている久美も、元の表情に戻っていた。 おかしくなりかけていた空気が、文也によってすっかり和んだんだ。 「普通さ、仕事が早く終わったら、普段できないようなことしない?たまに1人になって息抜きしたりとか、パチンコしたりとか。それなのになにこれ」 肩を寄せ合う私たち夫婦に、翔子が絡み始める。 「まぁまぁ、翔子も不倫してるんだからいいじゃん!」 「えっ…不倫!?」 文也が慌てたように、腰を浮かせる。 「私だって、まだまだ女でいたいんで。妻である前に、母である前に、1人の女なの」 「なにその臭いセリフ。それなら結婚する意味なんてなくない?文也さんはどう思いますか?」 グッと詰め寄ってくる久美に「参ったな」と頭をかく。 けれど文也は私の肩を抱き寄せると、言ったんだ。 「俺は妻がいれば、それで充分なんで」 私の友人たちの前でも、恥ずかしがることなく言い切る夫に「ありがとう」と小声で囁く。 呆れたようにワインを注ぎ足す翔子とは裏腹に、久美は私たちを真剣な目で見ている。 その瞳に、わずかながらの『棘』を感じた。 「…久美?」 「──っ!」 いきなり立ち上がると、走って出て行く。
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