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「もう皆さん、いらしてるわ」
別世界への入り口を開けると、女王が自ら出迎えてくれた。
肌の露出した黒いドレスをまとった京子は、息を呑むほど美しい。
「瑞穂さんも来てくださったのね。私、嫌われちゃったかと思ったわ」
「いえ…おめでとうございます」
「どうぞ、こっちよ」
長い長い廊下を歩いていくと、どんどん現実から遠ざかる感覚に襲われる。
早くも帰りたかった…。
斜め前を行く京子の白い肌は、女の私でさえ見惚れてしまうほど。
しかし、どうしてもキスの場面が思い出される。
夫がありながら、夫以外の男となんの悪びれることもなくキスをし、それを推奨する女。
私は──この人が嫌いだ。
それは生理的なものにも近い。
あのひとを思い出すからかもしれない。
女という香りを体中から撒き散らし、欲望のままに生きる様は、嫌でも母親と重ねてしまう。
「あっ、そうだ」
京子が脇の扉に手をかけると、そこはワインセラーだった。
あまりの本数に驚いていると、手際よくコルクを飛ばす。
「ウェルカムドリンクよ」
「私、お酒はちょっと…」
「いいじゃない、一杯くらい。仲直りのしるしに」
そう言って、京子だけじゃなく奈緒も飲み干すので、つられて私も一気にグラスをあおった。
「さぁ、素敵な時間を過ごしましょう」
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