ニアミスする、夫婦

3/10
前へ
/668ページ
次へ
ここはオークションだ。 競りにかけられるのは『人妻』で、俺たちが商品を 吟味して落としていく様は、需要と供給が合致している優良な市場でもある。 互いが望んでいるのは、束の間の情事。 決して家庭では味わえない、ほんのいっときのスリルを楽しむために、今日だけはマスクをして自我を解き放つ。 早速、俺の体に遠慮なく擦り寄ってくる、人妻たち。 後腐れなく、名前も知らない人妻と肌を重ねよう。 シナをつくる女たちを選り好みしていると、誰かの叫び声が聞こえた。 出入り口でごねているらしいが、ここからじゃよく見えない。 どうやら、こんなパーティーだとは思わなかったようだ。 なにを今さら、往生際が悪い。 こんなケバいマスクをしている時点で、そのつもりだったくせに。 ここにきて、いい子ぶるなんて。 せっかくの場が、白けてしまうだろう。 場違いな騒ぎには目も向けず、肉付きのいい人妻に決めた。 一度きりなら、セックスの匂いが強い女がいい。 手を引いて奥の個室に向かう。 手近なドアを開くと、中で誰かがせめぎ合っていた。 あれは──? 確か、瑞穂と仲がいい主婦友じゃなかったか? それも、男が何人も体に群がっていて、本人は恍惚な表情を浮かべている。 瑞穂が知ったら、間違いなく卒倒するだろうな。 その時、誰かが走ってくる気配がしたので、俺は急いでその場を離れた。
/668ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2337人が本棚に入れています
本棚に追加