ニアミスする、夫婦

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電話が鳴っている。 スーツの内ポケットに入れているのを、忘れていた。 調子っ外れの映画のテーマソングは、瑞穂からの電話だ。 これも妻へのアピールのため、あえての着信音。 しかし、出ることはできない。 女と一つに繋がっているからだ。 「ああっ!」 そろそろ絶頂を迎える女の背中を見つめながら、着信が切れるのを待つ。 だが、またすぐ同じ着信音が鳴った。 今はまだ昼間だ。 俺は仕事に行っていることになっている。 瑞穂は、俺の仕事の手を止めるようなことは絶対にしない。 要件ならメールですむし、2度も連絡してくるなんて…。 さっさと女をイカせ、俺は鳴り続けているスマホを手に取った。 「もしもし?」 プツリと切れる。 何かあったのだろうか? かけ直そうと思ったが、とりあえずここから出た方がいいだろうと考え直し、スーツを着る。 来た道を戻ろうと足を踏み出したとき、誰かが床に倒れていた。 どうせ酔っ払いだと思い、通り過ぎようと──。 「──瑞穂?」 つい、声が出てしまった! 慌てて口を押さえたがもう遅い。 顔を上げた瑞穂に、顔を見られてしまったからだ。 俺がここに居たことが、バレた…。 でも、どこか様子がおかしい。 苦しげな息遣いで、意識が朦朧としているように見える。 そもそも、どうして瑞穂がここに? マスクをしてるってことは──?
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