2352人が本棚に入れています
本棚に追加
心から妻を愛し、敬い、命をかけて守るのが夫のつとめ。
できるだけ一緒に食事をとり、その日に起きた出来事を話し合う。営業でのセールストーク、いけ好かない上司の愚痴、妻からはご近所の付き合いや、新しくできたパン屋の話に、ちゃんと相槌を打つ。
他愛もない話にも、リアクションは欠かさない。
手料理には感想を口にし「美味しかった」と伝える。
髪の毛を切ったり、痩せたなどの、わずかな変化も見逃さない。
妻のことを見ている、気にかけているというアピールは、過剰なくらいでちょうどいい。
毎日のメールに、結婚記念日だけじゃなく、付き合った記念日も忘れずに祝う。
もちろん、セックスは重要なポイントだ。
妻を抱かなくなったのならば、それはもう夫でもなんでもない。
夫の資格すらないだろう。
その点、俺はそれらすべてのことを完璧にこなし、良い夫だと自他ともに認められている。どこを切り取っても『理想の夫』であると、自信を持っていた──。
「瑞穂、愛してる」
世の旦那連中が、恥ずかしくて口にしないような愛の言葉も、惜しげもなく妻に囁く。
「ああっ、文也!私、もう…あぁあああっ!」
俺にしがみつき、瑞穂が体を強張らせていく。
もちろん、独りよがりのセックスはしない。終わればすぐ体を離すようなこともせず、腕枕で優しく包み込む。
俺がこうまでして妻を大切にし、良き夫となるのははっきりとした理由があった。
それは…。
最初のコメントを投稿しよう!