不倫の絶対的ルール

3/13
前へ
/668ページ
次へ
心から妻を愛し、敬い、命をかけて守るのが夫のつとめ。 できるだけ一緒に食事をとり、その日に起きた出来事を話し合う。営業でのセールストーク、いけ好かない上司の愚痴、妻からはご近所の付き合いや、新しくできたパン屋の話に、ちゃんと相槌を打つ。 他愛もない話にも、リアクションは欠かさない。 手料理には感想を口にし「美味しかった」と伝える。 髪の毛を切ったり、痩せたなどの、わずかな変化も見逃さない。 妻のことを見ている、気にかけているというアピールは、過剰なくらいでちょうどいい。 毎日のメールに、結婚記念日だけじゃなく、付き合った記念日も忘れずに祝う。 もちろん、セックスは重要なポイントだ。 妻を抱かなくなったのならば、それはもう夫でもなんでもない。 夫の資格すらないだろう。 その点、俺はそれらすべてのことを完璧にこなし、良い夫だと自他ともに認められている。どこを切り取っても『理想の夫』であると、自信を持っていた──。 「瑞穂、愛してる」 世の旦那連中が、恥ずかしくて口にしないような愛の言葉も、惜しげもなく妻に囁く。 「ああっ、文也!私、もう…あぁあああっ!」 俺にしがみつき、瑞穂が体を強張らせていく。 もちろん、独りよがりのセックスはしない。終わればすぐ体を離すようなこともせず、腕枕で優しく包み込む。 俺がこうまでして妻を大切にし、良き夫となるのははっきりとした理由があった。 それは…。
/668ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2352人が本棚に入れています
本棚に追加