不倫だけは、絶対に

2/13
2196人が本棚に入れています
本棚に追加
/668ページ
「文也、起きて」 私はベッドに浅く腰をかけ、夫の肩を揺すった。 けれどこの程度では起きないことは、百も承知だ。 連日の接待で帰りが遅く、文也はアルコールにも弱いが、それでなくても異様に寝起きが悪い。妻としての大仕事はまず、夫を起こすことから始まる。 とはいっても、細かい朝の支度は終えてあって…。 「早く、もう起きる時間よ」 揺さぶりを次第に大きくしていく。 「ううっ…」 「朝ごはん、できてるわよ。お味噌汁、文也の好きなシジミにしたから」 「…あぁ」と言ったきり、動かなくなった。 こうなれば、最後の手段しかない。 立ち上がった私は「起ーきーろっ!」と言いながら、眠っている夫にダイブする──。 「えっ!?」 ガバッと、いきなり向きを変えた文也に抱きつかれてしまった。 そのままギュッと、しがみついてくるではないか。 「やだ、もう!」 「いいじゃん、ちょっとくらい」 甘えた声を出し、頬擦りしてくる33歳。 これが、まさか製薬会社の営業セールストップだと誰も思わないだろう。 「ホントに間に合わなくなるからっ」 「おはようのキスは?なんならセックスでもいいけど?」 「お義母さんに聞こえちゃうでしょ!?」 「あぁ、それ言う?萎えたじゃん」 「それは残念でした。ほら、早く!」 ようやく甘えん坊の夫を起こすことに、成功した。
/668ページ

最初のコメントを投稿しよう!