不倫だけは、絶対に

4/13
2204人が本棚に入れています
本棚に追加
/668ページ
文也を見送り、すぐに掃除と洗濯に取りかかる。 姑が習い事に忙しいのは、嫁である私と顔を突き合わせるのを避けるためだろう。 程よい距離感を気遣ってくれるのは、有り難い。 しかし、越してきたばかりの4LDKを埃ひとつ残さずに拭き取るには、午前中いっぱいかかってしまう。 「あぁ、疲れた」 とはいえ、看護師時代の激務に比べれば天国のようなものだ。 まさか私が専業主婦になるとは──。 はっきりとした理由はないけど、なんとなく世話好きな性格を自覚していて、看護師になると決めた。 無我夢中で走り続け、気づけば中堅となる。 駆け出しだという言い訳も通じない、かといってキャリアを上がるわけでもない、宙ぶらりんな位置づけ。 慢性的な人手不足や、患者とのトラブル、上司との軋轢で、私は30歳を前に精神的に追い詰められていく。 セクハラや排泄処理に追われ、身なりを構う余裕もなかった頃──事故で入院をしてきた『谷口文也』を担当したのが私だった。 イケメンな患者と恋に落ちて玉の輿、なんていうのは漫画かドラマの世界だと思っていたのに、文也はすぐに私の苦悩を感じ取ってくれたんだ。 退院してもデートを重ね「僕だけを介抱してほしい」と、地獄から救い出してくれた夫を、私は全力でサポートする。 それが妻としての、私の役目だから。
/668ページ

最初のコメントを投稿しよう!