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だから『話したいことがある』と、不倫用の携帯にメッセージが届いたとき、俺は覚悟を決めたんだ。
どんなことがあっても、生まれてくる子どもと瑞穂の生活を守るんだと。
不倫相手だった綾香に、俺たちの人生を壊させやしない。
たとえどんな犠牲を払っても──。
「久しぶり」
俺を出迎えた綾香の異変に、すぐ気づく。
これまでまとわりついていた、張りのようなものが消えていた。
薄く化粧して微笑む顔は、俺たちが出会った頃のようで…。
「引っ越すのか?」
奥に見える部屋が、もぬけの殻だったんだ。
「田舎に帰ることにしたわ。それで最後に挨拶しようと思って。あなたには、お世話になったから」
言葉の響きに、嫌味は感じられない。
「片付けをしてたら、色んなことを思い出して。良いことも悪いこともすべて、あなたが一緒だった」
「綾香…」
「だから最後は、あなたに嫌われたくないの。だって、私はあなたのことが──死ぬほど好きだったから」
そう語る綾香は、庭から覗いていたときとはまるで別人だった。
ひとは、ここまで変わるものなのだろうか?
俺の妻になるという執着を捨て去り、自分の道を生きることを選んだんだ。
それなら俺は、全力で応援したい。
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