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「俺も綾香の幸せを、心から願ってるよ」
そう言って、そっと綾香の手を握った。
まだ俺のことを好きなのは分かっている。
ここでツバをつけておいて、落ち着いたらまた関係を復活させればいい。
「文也…」
俺の手を握り返す綾香が、感極まったように名を呼ぶ。
「また結婚してから連絡くれないか?」
「それはダメよ」と、まさかの断りだ。
「だって私は、今から幸せになるから」
綾香の潤んだ瞳が、どんどん熱を帯びてくる。
どうやら結婚するという決意は固いらしい。そして不倫をしないという思いは、不倫をしてきた綾香だからこそなのか、本当なら気持ちを尊重したいが…。
「俺はまた綾香と会いたいな」
瑞穂にバレない程度に。これから来たる幸せを、壊さない程度に。俺が不倫を楽しめる程度に。俺が、幸せでいるために──。
「大丈夫。私はずっと文也の側にいるから」
「えっ?」
どういう意味だろう?
離れても心は通い合っているという、スピリチュアル的なことか?そんなものより、俗ものの不倫関係がいい。あの言葉にし難い、刹那的な背徳感が。
「安心して。私は、あなたと幸せになるから」
「っ!?」
こちらに向けて微笑む綾香は、あの目をしていた。
隙間から覗いていた、虚ろな目を。
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