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「な、何を言ってるんだ?」
「この子と3人で仲良く暮らしましょうね」
労わるようにお腹に手を添えて微笑む綾香は、完全に様子がおかしかった。
「あ、綾香…?」
「ほら、パパも触ってあげて」
そう言って俺の手を掴むので「やめろっ!」と、乱暴に振り払う。
ぞわりとしたものが、俺を包む。
2度と離しはしないと、包み込んでくる。
「田舎に帰って見合いするんだろ?俺と別れて幸せになるんじゃ…?」
もう解放してくれるんじゃなかったのか?
俺は瑞穂と、生まれてくる子どもと幸せになるんだ。
いくつも不倫を繰り返してきたが、これからは心を入れ替えて真面目に生きていく。綾香とは別れて、温かい幸せを築くつもりなのに──。
「フフッ」と微笑んでいる綾香に危険を感じた俺は、車を路肩に止めようとしたが…。
「愛してるわ」
そう言うと、綾香がハンドルに覆い被さってきた!
「おいっ、やめろっ!」
車が大きく進路を変え、どんどん加速していく。
「愛してるの」
うっとりとした響きで繰り返す綾香は、俺の顔しか見ていない。
目の前にガードレールが迫っているというのにっ!
「や、やめろ!」
なんとかハンドルを取り戻そうとするが、車は真っ直ぐ突っ込んでいく。
やめろ、やめろやめろやめろやめろ、やめてくれ!
俺は瑞穂と幸せになるのに、なんでこの女と?
「あなたも愛してるでしょ?」
車がガクンと大きく揺れ、ガードレールを突き破る…。
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